103 / 145

第105話

「なにが?」 少し振り返って聞くアキラ。 「『オレなんか』って、自分卑下した言い方…意外だなって思ったッス」 いつも真っ直ぐ前を見て他人に弱みなんか見せないような…そんな感じに思ってたから。 カズキは言外に含んで言いアキラを見る。 「そっか?…まぁ、前はそんなでもなかったけど、最近はな…」 なんとなくそう答えてしまう。 「…なんかあったんスか?」 カズキは気になってすぐ聞く… 「別に、なにもないケド…」 「けど?」 さらにつっこんで聞く。 「…興味深々だな」 「だって、サクヤ先輩の事もっと知りたいし…」 カズキはアキラに、笑顔を向けて続ける。 「…サクヤ先輩と、もっと話がしたいんです、俺」 まっすぐな言葉に嘘はないようだ… 「…ばーか、カズキが面白がるようなものねーよ」 その真っすぐな視線からにげるように言葉を出してアキラは個室6号に入る。 「先輩?」 「待って、アドやるから…はい」 メモに走り書いて、カズキに渡すアキラ。 「ありがとうス!」 嬉しそうに笑うカズキを見て…アキラもつられて微笑む… 「あの…送りますから、返事…くださいね」 個室の戸を押し開けた状態でアキラを見下ろしてとう。 「気が向いたらな」 カズキを上目遣いに見上げ、からかうように言い返す。 「そんな…帰れないっすよ、それじゃ…」 その綺麗なアキラを見て…触れたくなって細い指に手を絡めるカズキ。 「馬鹿、お前もほぼ徹夜で撮影したんだから…早く帰って寝ろよ、元気だな…」 カズキの手を解くことはせず、困った奴だ…と首を傾げる。 「…先輩の手、熱い…」 アキラの手を握りしめながら…少し屈んで呟く。 「…ふ、心が冷たいからだろ?」 アキラは、くすっと笑って離れようとする。 「…先輩」 カズキは、その身体を逃がさないよう片腕で抱き寄せる。 「…カズキ?」 アキラは抱き寄せられ、すっぽりカズキの腕の中に納まる。 片手でカズキとの密着を遮りながら…その相手を見る。 「カズキ?…放せよ」 困った風に息をついて、続けていうと… 「…返事くれるって約束してください」 そっとカズキは囁いてくる。 「カズキ…」 「無視は辛いっスから…先輩」 アキラの言葉をさえぎるように続けて言う。

ともだちにシェアしよう!