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第109話
「ならええよ、性優サクヤ、9年と10ヶ月…長い間お疲れさん、売上貢献になってくれた…」
頷き話し始める。
「まだ、手放すんは惜しいけれど…サクちゃんは早ようから働いてもらっとったからなぁ、まぁ仕方ないなぁ…」
ぼやくように言うトップ。
「…長い間お世話になりました」
トップの思惑に気付くことなく、きっちり挨拶するアキラ。
「…身体、丈夫にするんよ」
そしてトップはアキラを見ながら優しい言葉をかける。
「…すみません」
ぽつりと謝りとお礼を兼ねて言うアキラ。
その様子を目に止めつつ…
「なら、これを、」
トップは、袋に入ったDVDを一本渡してくる。
「これは?」
受取りながら聞くアキラ。
「卒業するとき、皆に渡しとる物。BOUSでの個々の撮影成長記録、初撮影の時から現在までの映像をカット編集したもので…今日撮った終撮も仮編集ではいっとるからな…持って帰り」
簡単に説明する社長。
「え、別に欲しくないので、そちらで処分してください…」
そんな物をもらっても困るだけだから…と断るが…
「いいや、さっき助手たちが寝ずに編集した物だ…持って帰ったら好きにしたらえぇから、製品版と違ごうてプロテクトかかっとらんから、処分するときは折って、他人には見られんように…それだけは気ぃつけて」
断固持ち帰らせるつもりの社長、アキラもそう言われると突き返す訳にもいかず、頷いて鞄に入れる。
「…長い間、世話になりました、失礼します」
「あぁ、ご苦労さん…気ィつけて帰り」
トップは、すんなりアキラを送り出す。
「……」
軽く礼をして、社長の部屋を出るアキラ。
「…ふぅ、」
壁にもたれかかり、うつむいて息をつく…
トップとの挨拶も終わった…後は…
そう心で呟いていると、不意に向かい側から声がかかる。
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