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第115話

「い、急いでるんで…」 ナギから数歩下がってようやく言葉を出す。 「あぁ、そうだ、俺もこれから仕事…ヤベ、3時過ぎてらぁ、じゃなユウ、サクヤも楽しかったぜ!」 終始いつも通りなナギ。 慌ててBOUSビルに舞い戻って行った。 「…はぁ、」 思わぬ災難に見舞われたみずきは大きな溜息をついている。 それを横目で見てアキラは… 「帰ろ」 とごく普通に声をかける。 「……あぁ」 頷いて歩き出す2人… しばらく無言で歩くみずきにアキラは横をついて歩いている。 なにやら考えている様子のみずき、ふと立ち止まって、アキラの方を振り向く… 「…ごめん」 そして突然謝るみずき。 「え?何が?」 みずきの考えが読めなくて聞き返してしまう。 「さっきの…」 不意であれ自分にもっと回避力があれば… アキラ以外とはキスであれしたくなかったのに、よりにもよってアキラの目の前で… 自分のふがいなさに…みずきはかなりショックを受けた感じで謝ってくる。 「バカ、ナギ先輩のアレはいつものことだろ?いちいち気にすんな…」 そんな事で謝られたら身体を重ねた自分はどうしたらいいのか… 「アキラ…あぁ」 自分自身の中ではまだ後悔しているけれど…アキラがそう言ってくれるから… ひとまず気持ちは浮上する。 「ウン…」 頷くアキラのウェーブがかった髪に触れ、微笑みを向けて抱き寄せるみずき。 「…お疲れさま、アキラ」 優しく囁く… 「ん?うん、終わったよ」 みずきに寄り添い答える。 「…それから、アキラ、誕生日おめでとう…19才、おめでとう」 そう、伝えて… 人目を憚ってか、言葉のみで…すっと軽く抱きしめ、そしてその手をゆっくり離すみずき。 「ん、待たせただろ、ゴメン」 素直に謝ってくれるアキラへ… 「いや…いいよ、持とう」 軽く首を振り、アキラの鞄を持ってやるみずき。 「サンキュ」 上目づかいに見て、微笑みお礼を伝える。 その姿は本当に愛らしくて… 自分の腕の中に納まってくれたことで、ようやく安堵できる。 もう、誰の元にもやりくない…。 「…行こうか」 そっと手を繋いで歩き出す2人。

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