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《大切なひとの為に》

帰宅してそのまま奥の寝室へ直行するアキラ。 「あ、パジャマ…」 ピタ、と止まって呟く。 私服がジーンズ系なので、着替えて寝ようと思い、風呂場に置いてある寝衣を取りに行こうと振り返る。 「取ってくるから、アキラ…」 すぐ言葉をかけるみずき。 「いいって、そのくらい自分で取りに行くから…」 アキラはそう言うが… 「いいんだ、今日はなんでも頼ってくれたらいい…」 誕生日なんだから…と含んでアキラをベッドへ座らせる。 その姿をしばらく見て、アキラは… 「…ん、じゃ」 そう頷きみずきの好意を受けることにする。 確かに身体も怠いし、あまり動きたくないのも事実… 「あぁ、少し待って…」 そう言い残し、ひとまず部屋を出る。 「…はい」 みずきは、さほど時間をかけずにパジャマを持って来てアキラに渡す。 「サンキュ、オレ夜7時前ぐらいまで寝てるから…」 そう言いながら、受け取った黒色のパ ジャマに着替えはじめる。 「あぁ。…アキラ、昨日晩は何か食べたか?」 みずきはアキラの着替えが目に入らないように目を逸らし、アキラに背を向けて反対側のベッドサイドに座って聞く… 「んー、休憩中に珈琲は飲んだ」 パジャマの袖に手を通しながら、思い出すように答えるアキラ。 「御飯は?」 答えは予想できたが、一応聞いてみるみずき。 「撮影前は食わないんだよ」 やはり…と軽く溜息をついてしまう。 アキラの少食は昨日今日始まったことじゃないが… 「じゃ…朝と昼は?」 今は午後の4時前… 今日の朝と昼の食事時間はとっくに過ぎている。 おそるおそる聞いてみる。 「てゆうか、そうゆう余裕なかったんだよ、心配しなくても、ホットミルクとかお茶とか飲んでるから水分補給は出来てるって…」 平然と言うアキラにガクッと肩を落とす。 (水分だけって、赤ん坊じゃないんだから…) BOUSにも一応、食堂のようなモノはあるが…何か食物を持っていかせるべきだったか…と軽く後悔のみずき。 「…今、何か食べるか?それとも飲む?」 ダメもとで聞く。 「…今から寝るし、いらない」 すっと布団にもぐりながら、あっさりした返事が返ってくる。 アキラは、はっきり食べないといったらいくらすすめても食べない… お腹は空かないのか?とか、どうして食べないんだ?とか疑問がわくけれど… いつも『欲しくないから』とか『お腹空いてないから』とかわされるのがオチだ。 これだけは、みずきの悩みの種なのだ…。 寝転んだアキラの髪を撫でながら困った顔をしているみずきに… 「そんなに気にすんなよ、一日二日食べなくったって死にはしないって…」 と言っても普段から食が細いアキラだから心配なのに…

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