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【7】
誕生日当日――。
会社帰りにあらかじめ予約してあったホテルのイタリアンレスランで、先日のSK町での事を美弦に説明されても、颯真は自身でも驚くほどあっさりと受け入れていた。
美弦は、SK町を仕切る指定暴力団、厳真会(げんしんかい)会長の甥であり、颯真とチンピラの仲裁に入ったアキもまた会長の実の弟であるということ。
そして、界隈では『双頭のミツル』という俗称で通り、街に関わる者であれば知らない者はいないという
「――驚かないの?」
「そんな気はしてた……」
ワイングラスを片手につまらなさそうに唇を尖らせた美弦は、テーブルの向かいに座る颯真を睨んだ。
「つまんないの! でもね、俺を泣かせるような事があったら伯父さんが黙ってないって」
負けん気の強い子供の様に、会長である伯父の権限を振りかざす美弦に、颯真はいたって真面目な顔で応えた。
「泣かせない」
「凄い自信だね」
「一生、お前を愛すって決めたから……」
「――それって、プロポーズ?」
身を乗り出して、颯真の返事を待つように小首を傾げた美弦が愛らしくて堪らない。
この場でキスをしたい衝動を必死に抑え込み、颯真は平静を装ってワインを煽った。
「返事は気長に待つよ」
大人の余裕を見せる颯真に美弦は小さく舌打ちして、すっと目を細めた。
付き合い始めて分かったこと。彼はミツルの事を子供扱いするフシがあったのだ。
歳は離れていても同じフィールドで働いている。実力だって認められていたはずだ。
そんな颯真に苛立ちを覚えた美弦はネクタイを緩めると、唇に残ったワインを舌先で舐めとった。
「颯真……。後悔しないでね」
「後悔? 俺は後悔なんてしない」
「ふ~ん。何があっても俺は逃がさないからね」
「望むところだ」
そう答えた颯真の前で突然、美弦が立ち上がった。
しなやかな指先を伸ばして薄っすらと笑みを浮かべながら見下ろしている。
「美弦?」
「セックスしよう! 颯真……」
誘うような妖艶な眼差しに、颯真が抗えるはずがなかった。
その指先をそっと掴み寄せ、指に舌を絡ませる。ねっとりとしゃぶり、時に音を立てて吸い上げた。
ここがレストランであることを忘れるほど、淫靡な空気が二人を包み込んだ。
「女王様のご所望とあらば……」
「今夜も愉しませてくれるんだろ?」
「もちろん。ご期待に添えるよう尽力いたします……」
目を伏せて指先にキスをした颯真を見つめていた美弦の唇がふっと緩んだ。
(愉しませてもらうから……)
何一つ申し分ない完璧な恋人――。そんな彼を泣かせることが出来るのは美弦だけ。
流した涙、その一滴さえ誰にも渡さない。
颯真の知り得ない美弦のもう一つの顔が、ゆっくりと目を醒ました瞬間だった。
* * * * *
「あぁ……んはっ……んんっ」
堪え切れずに漏れた吐息と、抗えない快感に咽ぶ声が寝室に響いた。
下肢の方から聞こえるのは自らの唾液と溢れ出る透明な蜜を啜り上げる卑猥な水音。
「やめ……んぁぁ……っ」
大きな体がうねり、糊のきいたシーツに皺を寄せていく。
「み……つ、る……ど……いう、つもり……だっ」
呻くように喘いでいたのは、両手をネクタイで縛られ頭上で固定されたまま、全裸でベッドに横たわる颯真だった。
こげ茶色の髪が羽枕に散り、じわじわと与えられる快感に肌には薄っすらと汗が浮かんでいた。
彼の長大なペニスを両手で大切そうに包み込んだまま、大きく張り出した先端に丁寧に舌を絡ませ、上目遣いで目を細めているのは、本来組み敷かれているはずの美弦だった。
時折、後孔から飛び出たシリコンのリングに指をかけ、小刻みに揺らしている。
颯真の誕生日を祝うために用意された部屋に入るなり、美弦は颯真をベッドに押し倒し、着ていたスーツを手際よく脱がした。そして両手を縛り上げ、無防備な彼の足を大きく広げると、バッグから取り出したジェルをたっぷり自身の指に纏わせ、未開発の後孔を弄り始めたのだ。
「あぁ……。久しぶりの感触。この硬い蕾をトロトロにしてあげるからね」
最初は一本。円を描くように慣らした後で指が二本に増やされる。
元来排泄のための器官に指を入れられ、中を掻き混ぜられることに初体験の颯真は強烈な異物感を感じて、つい息を詰めてしまう。しかし、そうすればそうするほど中の指を食い締めてしまい、よりはっきりとその感触を意識してしまう。
「ヒクヒクしてきたよ……。だんだん柔らかくなって来た」
「うぅ……やめ……ろっ」
「やめないよ。俺、独占欲強いから颯真の童貞だけじゃ満足できない」
「な……っ! 何、言って……だっ」
「もうちょっと慣らそうか……。颯真が傷つくのイヤだから」
一旦ベッドから下りた美弦がバッグから取り出したのは、先端から持ち手のリングに向かって徐々にボールの大きさが変わっていくシリコン製の玩具だった。
「アナルビーズ、知ってるよね? これ、入れてあげる」
「マジ……かっ! よせっ! 入らない……っって! んあぁぁぁっ」
一つ、また一つと潤んだ蕾の中に押し込まれていくボールに、颯真はゾクゾクとした甘い痺れが背筋を駆け上がっていくのを止められなかった。
「颯真の全部、欲しいの……」
「かは……っ! やめ……ろっ」
「やめない。全部、俺のモノにしたいから……。ほら、全部入っちゃったよ」
後孔がヒクつくたびにリングがふるりと揺れ、何とも煽情的な光景だ。
初心者用の比較的ボールが小ぶりなものを選んだつもりだったが、処女である颯真にはこれでもきつかったようで、眉を顰めて奥歯を噛みしめている。
「颯真、息して……。力抜いたほうが楽だよ」
「ムリ……だっ。中で……んあぁ……動くっ」
「気持ちいいでしょう?颯真のチ〇コ、嬉しくて蜜が止まらないよ?いっそ、このままメスになっちゃう?」
「イヤ……だっ!」
「俺は颯真がメスになっても愛してあげるよ」
「み……つ、るっ!」
抗議しそうな颯真の唇をキスで塞いで、ツンと尖った胸の飾りを指先で捏ねる。
「ん――っ!ぅんん――っ」
きつく捩じりあげると、鍛えられた腹筋の上に蜜を滴らせていたペニスが大きく跳ねる。その質量にうっとりとしながら、美弦は彼の頬を両手で挟み込むと、意地悪な笑みを浮かべた。
「一生忘れられない誕生日にしてあげる。俺に颯真の処女、頂戴」
「お前……っ」
「本気になった相手を征服したいって誰でも思うでしょ? 颯真は満足した? 俺はね……まだ足りないっ」
首筋に胸元にいくつもの情痕を残しながら胸の飾りを甘噛みすると、颯真はシーツから背中を浮かせて熱い息を吐いた。いつも会社で見せるストイックな表情はそこになく、与えられる快感に抗うべきか委ねるべきかの葛藤が垣間見られ、何とも艶のある顔になっていった。
「エロい顔……。その顔、俺以外のヤツに見せたら許さないからね」
「あ、あぁ……っ」
美弦の手の動きに腰を揺らし始めた颯真は、顎を上向かせて声を上げた。
営業一課のエリート主任の痴態を見ながら啼かせていることに優越感を感じ、尚且つ最初で最後になるであろうパートナーを手に入れた喜びに、美弦の股間はいつも以上に大きく膨らみ、開放を待ちわびていた。
ベルトを緩め、下着ごとスラックスを脱ぎ捨てると、上を向いて勃つ自身のモノを上下に扱き上げた。
溢れる蜜を茎にまんべんなく広げ、出来るだけ颯真に苦痛を与えないように配慮する。
「――颯真、ビーズを抜くよ?」
リングに指をかけた瞬間、颯真が内腿を小刻みに痙攣させた。
じわじわと力を入れて引き抜くと、大きく脚を開いたままの彼がビーズを食い締める。
「力抜いて……。そんなにこれが気に入ったの?」
「あぁっ、や、だぁ……抜く……なっ。ゾワッて……な、……あぁっ」
蕾から一つ、また一つとボールが抜け落ちる。そのたびにプチュリと小さな音を立てる蕾が愛らしい。
半分抜いたところで、美弦は一気にビーズを引き抜いた。
「ひゃぁぁぁ!」
颯真の体がガクンと大きく跳ねると、臍の上に白濁交じりの蜜がトロリと滴り落ちた。
一度メス化しかけた彼の体は感度が良く、前だけでなく後ろでも感じられるようになっているようだ。
「イヤらしいお尻……」
美弦の声に、腰からせり上がってくる甘い痺れが颯真の脳天に直接伝達される。
居ても立っても居られない疼きに腰を揺らめかせて、自身のモノを扱いている美弦を涙目で見つめた。
「欲しい?」
「――挿れて……くれ。はやく……俺をお前のモノに……してっ」
声を震わせる颯真を満足気に見下ろしながら、美弦は大きく広げられた脚の間に体を滑り込ませると、蜜に濡れた先端をヒクついている桃色の蕾に押し当てた。
「はぁ……っん」
「痛かったら言ってね。手加減する余裕ないけど……」
「かま……わ、ない。お前に……処女、くれてやる」
茎に手を添えてグッと腰を沈めると、濡れそぼった蕾は頬ばるように美弦のペニスを難なく咥え込んだ。
「あ……入ってくるっ」
「キツイ……ッ! 颯真、息……吐いてっ」
力任せに突き込んではみたが、異物と見なされて弾かれる方の力が強く、なかなか奥に進めない。
美弦のペニスも決して小さい方ではない。完全勃起時はそれなりの太さと長さを誇る。
「ぐ……あぁっ! いた……っい」
メリメリと薄い粘膜を広げながら入っていく美弦の先端がコリッとしたものを掠めた瞬間、ふっと颯真の体の力が抜けた。そして……。
「あぁぁぁぁっ!」
ビクビクと内腿を痙攣させて歓喜の声を上げた。
「――颯真のいい所、み~つけた」
力が抜けたタイミングで一気に腰を押し込み、根元まですべて収め切ると、美弦はゆるゆると腰を動かし始めた。
「あっ、あっ……。うぁ……あ、あ、あぁ――っ」
「熱いよ……。颯真の中、熱い。チ〇コ、蕩けそう……」
「あ、や……っ。きも……ち、いっ。そこ……もっと、突いて……くれっ」
颯真の大きな体が揺れるたびにベッドが激しく軋む。繋がった場所はグチュグチュと濡れた音を発し、栗色の髪を乱して美弦が腰を振るたびにパンパンと肌がぶつかる破裂音が部屋に響いた。
タチとネコが入れ替わっても、互いに重なり合う肌の感触と息遣いは変わらない。
快感を貪り、互いを食らい尽くそうと熱を放つ。
汗を散らし、甘く香る蜜を腹に滴らせて、二人は同じ場所に昇り詰めていく。
「あぁ……颯真ぁ。俺……イキ、そっ」
「俺も……だっ。あぁ……んんっ……美弦……お前の……くれっ」
「あ、たり前だっ!一滴残らず……この中、に……出して……はぁ、はぁ、ヤバッ――イ、イクッ!」
「はぁ、はぁ……っ。あ、も……イ、イク、イク――ッ!」
美弦が一番深い場所に突き込むと同時に、隘路を駆けあがった灼熱が一気に弾けた。蠢動する薄い粘膜に叩きつけられた白濁は長い間迸った。
そして……颯真もまた、大きく膨らませた楔が暴発するかのように大量の白濁を吐き出した。
胸元まで飛び散った精液が胸の飾りを白く染めた。
未だ咥え込んだペニスから残滓を絞り取るかのように、きゅんきゅんと締め付ける颯真の中に未練を残しながら、美弦は力を失ったモノを一気に引き抜くと、ぐったりと颯真の腹の上に倒れ込んだ。
「はぁ、はぁ……」
荒い息を繰り返しながら、彼の呼吸が自身と同じくらい乱れている事を知る。
飛び散った白濁に頬を寄せ、そっと手で塗り広げていく。虚ろな目で濡れた指先を眺めてから躊躇なく口に含んだ。
「いっぱい出たね……」
「気が済んだか? ついに……性悪小悪魔に……童貞も処女も、奪われた……か。――美弦、手を解いてくれ」
「ん……」
重なったまま颯真の頭上に手をのばして、両手を縛っていたネクタイを解く。
手首に薄っすらと赤い痕を残した颯真は、その手で腹上にいる美弦の汗ばんだ髪を優しく撫でた。
そして、そのまま肩から脇腹、腰を撫でながら肉付きの薄い尻を鷲掴んだ。
「んあっ」
思わず声を上げた彼に優しく微笑むと、割り開いた双丘の奥に長い指を差し入れた。
「やぁ……っ。颯真、なに、する……んっ」
「ここはまだ、満足していないようだな。ほら……ヒクヒクして、物欲しそうに俺の指を咥えてる」
「バカっ! やめろって……」
腰を捩じって抗う美弦の肩に噛みつくように歯を立てた颯真は、アンバーの瞳に野性を滾らせた。
「痛っ! こらっ、放せっ」
「いいや。離さない……」
白い肩に薄っすらと血が滲んで、それを舌先で舐めながら目を細める颯真に、美弦はゾクリと身を震わせた。
「――お前の返事、ちゃんともらったから」
「え?」
いつも以上に甘く低い声に、美弦は目を見開いた。
色気を垂れ流す端正な顔がすぐそばにあり、落ち着いてきたはずの心臓が大きく跳ねた。
「俺はお前だけのメスだ。しっかり種付けしたんだから責任とれよ。俺はお前以外に体を開くことない」
「え……」
「お前だけのモノになったんだ。いい加減に素直になったらどうだ?」
「素直って……。ふぁ……あぁぁんっ」
蕾の入口をグリグリと抉られて、思わず甘い声が漏れる。
腹の下ではすでに力を取り戻している颯真のモノが、美弦を押し上げる勢いで膨張し始めていた。
「颯真……」
「ほら、言ってごらん。俺は逃げない……」
「あぁ……ん」
「だがな……俺もお前を雁字搦めにする。絶対に逃がさないから……」
美弦の全てを見透かす彼の目……。ムカつくけど心地いいと感じている自分がいる。
足を開きながら体をずらし、ゆっくりと上体を起こしていく。颯真を跨ぐようにして両手を腹筋の上につくと、彼の指がいい場所を掠った。
「ふぁぁぁぁ――っん!」
クチクチと小さな音を立てて出入りする指では満たされない事を知ってる。颯真は余裕のある顔で薄い唇を綻ばせた。
美弦にだけ見せる底なしに優しい笑みは、恋人になってもなお張り続けていたつまらない意地をゆるりと解いていく。
互いに繋がっても心を許せなかった自身を恥じた。
颯真は全身で全力で想いをぶつけてくれる。そんな男に完全に堕ちたことを認めざるを得なかった。
美弦はわずかに腰を浮かし、すっかり力を蓄えた颯真の楔に手を添えて、先端を蕾に押し当てた。まだ彼の指が入ったままの場所に当て、ゆっくりと腰を沈めていく。
「美弦……っ」
「んあぁぁ……入るっ。颯真の全部……俺の中で……っ。いっぱいに……なる」
目一杯広がった蕾は、太い楔と二本の指を咥え込むと、離さないと言わんばかりにきつく食い締めた。
「気持ち……いいっ!」
蕩けた目で見下ろした美弦は、細い腰を揺らしながら颯真にキスを強請った。
赤い舌を覗かせて、長い睫毛を震わせる彼の姿は小悪魔というよりも淫らな天使に見えた。
水音を響かせて揺らめく白い体から放たれる甘い香りに、颯真は眩暈を覚えた。
広がった蕾から指を引き抜くと、不満げに眉を寄せる彼の肩を抱き寄せて唇を重ねた。
「愛してるよ、美弦……。最高の誕生日をありがとう」
「颯真……。俺も……俺も、あ、愛してる……から。お前だけ、一生愛してやる……からっ」
言いたくて、ずっと言えなかった言葉。想いが大きいほど傷つくことが怖くて……。
これほど自身を愛してくれる颯真を疑って……た。
嬉しさに、美弦の頬に涙が伝う。それを舌先で掬った颯真は強く抱きしめて腰を突き上げた。
「あは……んっ」
「お前の涙は全部俺が貰う。会長に知られたら殺されるからな……」
もう傷付けない。絶対に泣かさないと誓った。
美弦との出会いは必然で、最初から童貞も処女も捧げる相手だったのだと……。
そして、最初で最後の恋人になるのだと、決まっていた。
もう、つまらないプライドなんて必要ない。ありのままの自分を曝け出せばいい。
腹上で喘ぐ最愛の恋人の濡れた唇を舌先で愛撫して、二人で高みに昇りつめよう。
しがみ付く美弦の手を握り、颯真は三十三歳の誕生日に喜びの涙を流した。
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