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満員電車の悪夢③
Side 痴漢男(※痴漢男の視点です。しかも回想入ります)
キミを初めて見たのは、夏の夜だった。
私はしがないサラリーマンだ。
下請けのシステムエンジニアをしている。
42歳だが、管理職にもなっていない。
仕事は激務だ。
顧客は無理難題を突きつけるだけ突き付けて、定時で帰ってしまう。
年下の上司には散々怒鳴られる。
そして私は深夜まで働き、カプセルホテルに泊まり、着の身着のまま次の日を迎える。
あの夏の日も夜中の2時まで仕事をし、毎度お世話になっているカプセルホテルへ向かって歩いていた。
納期が近かった事もあり、この時期は特に忙しかった。
土日もろくに休みがなく、私は仕事をしている意味すらわからなくなり、疲れ果てていた。
フラフラと夜道を歩いていると、10代と思われる4、5人の集団が談笑しながら向こうから歩いてきた。
ダボダボのTシャツを来ていたり、ドレッドヘアーをした、いわゆるヒップホップ系の集団だった。
深夜のこの辺りはあまり治安がよくないようだ。
関わらないように通り過ぎようとしたが、疲れのあまりふらついてしまい、彼らのうちの一人と肩がぶつかり私は尻餅をついてしまった。
ぶつかった彼は私を一瞥したがそのまま歩を進めた。
因縁をつけられなかっただけいい。
ゆっくりと立ち上がろうとした私の目の前に、ふと、手が差し伸べられていることに気づいた。
見上げた私はとてつもない衝撃を受けた。
色白で小さな顔に大きな目、少しくせ毛のまじった黒髪、ピンク色をした唇。
手を差し伸べてくれたキミは、私には天使に見えた。
彼らの後ろを歩いていたのか、正面からは彼の存在に気付かなかった。
こんな子がいたのか。
私はその小さな手を掴んだ。
私を起き上がらせると、彼は無言のまま仲間たちのところへかけて行った。
男の子…か?
あまりに可愛い顔をしていたので、わからなかった。
あのガラの悪い集団に、あんなに可愛い子が一緒にいるのか?
私は暫く呆然としていた。
天使のような少年があんなガラの悪い集団に混ざっている、そのなんとも言えない危うさに私は惹かれていたのだろう。
その少年の事が忘れられなかった私は、深夜のこの辺りを毎日のようにうろついた。
一ヶ月程経ち、諦めかけていた頃に、再び彼を見つけた。
雨の日だった。
深夜で人通りも全くない小道に、彼は一人、傘もささずにただ座りこんでいたのだ。
私は動悸が止まらなかった。
雨に濡れている彼は、この世のものとは思えないほど美しく見えた。
ここで声をかけなければ、もう二度と会えないかもしれない。
私は彼に駆け寄って、傘を差し出した。
「か、風邪をひくよ。」
勇気を出してかけた言葉は声が上擦ってしまった。
彼は少し驚いて僕の方を見上げた。
大きな目が少し赤くなっているように見えた。
もしかして、泣いていたのか?
「…僕が傘を受け取ったら、あなたが濡れますよね?」
彼が僕に行った。
とても可愛い声だった。
「い、いや、私は折りたたみがあるから」
私の声は緊張で震えていた。
「でも…っくしょん!」
彼が可愛いらしいくしゃみをした。
「ほ、ほらっ、風邪をひく」
私は傘をもう一度差し出した。
彼は顔を赤らめ、少し頬を膨らませるようにして、傘を受け取った。
その仕草がなんとも少年らしくて可愛かった。
「ありがとうございます」
彼は立ち上がり、僕にお礼を言った。
なんて礼儀正しい子だろう。
ふと、彼の顔から下を見た。
さっきまで座っていたから気付かなかったが、彼の白い半袖のシャツは雨に濡れ、肌に貼りついていた。
ピンク色の小さな胸の突起がシャツ越しに見えた。
寒いのか、シャツ越しに尖っているのがわかる。
私は、興奮を抑えられなかったが、なんとか理性を保った。
そうこうしている間に、彼は軽く会釈をしてその場を足早に去ってしまった。
私は、すぐに後を追わなかった事を後悔した。
でも身体が動かなかった。
あの瞬間から、僕は、キミに心を奪われたのだろう。
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