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第4話 隠し通せる……訳がない
男子トイレの個室に押し込まれた俺は、なんて話しかければいいか分からない。当然か、えらいもの見せてしまった。
「ごめん正木、俺……」
「あ……」
いや、うん。どっちかっていうと、俺がごめん。
ドアの向こうで和樹がなんとも言えない小さな声で悔しそうに言う。ってか、こいつなにも悪くないし。
「ごめん、助けてやれたら……」
「まぁ、大丈夫だよ。俺、男だし」
「男だからって関係ないだろ!」
あぁ、うん、まぁ、ねぇ……
でもかなり興奮した自分もいるんだ。どうしようもない変態の俺もいるんだ。あれで和樹がいなかったら、俺は満足にあの状況を楽しんだだろう。
「今から警察」
「いや、いいよ。恥ずかしいし、それに犯人もいないんだから信じてもらえないって」
「でも!」
「いいから。あの、それよりも俺、その……」
制服のズボン、ちょっとまずい。慌てて始末してるけど、中がグチャグチャだ。我ながらどんだけ気持ち良かったんだよって悲しくなる。
「あっ、ちょっと待ってろよ!」
「え? おい!」
和樹が駆け出していく音がして、俺は一人トイレの中。あの、これはどうしろと……
でも、やっぱり俺ってダメだな。思いだしたらまた熱くなってきた。しっかり反応する息子よ、欲望に忠実過ぎやしないか?
思いだしたのは、俺の様子を食い入るように見ていた和樹の顔。真っ赤になって、オロオロして、パニクってるあいつの顔なんて初めて見た。いっつも余裕だからさ。
「っ」
俺は自分のものを握り締めて扱き始めていた。ついさっきの出来事でいつも以上に和樹の表情とか思い出せて、興奮してどうしようもない。頭がすぐにバカになって、手だけが忠実に欲望に従う。
濡れた音とかしてるし、パンツとかもう今更だし。こうなればヤケで、俺は狭い個室の中でひたすらシコッて、あっという間に二度目を吐き出した。
息切れして、脳みそぼーっとして。そんなだからドアの向こうに人の気配がある事に気付かなかった。
「あの……正木、その……」
「……え!」
声がかかってようやく気付いた。いつからいたんだよ! ってか、声殺してたけど伝わった……よな、この感じ。どこから聞いてたんだ!
「あの、これは!」
「とりあえず、出よう。これ、買ってきたから」
ドアの隙間から渡されたのは、新品のパンツ。これを買いに行ってくれてたのか。
ってことは、かなりの間聞かれてたっぽい。売店があるのって、改札の目の前だ。そしてトイレは改札入ってすぐ。行って戻ってくるのに、そんなに時間かかんない。
恥ずかしさMAX、いたたまれなさ死ねるレベル。でもここで死ぬわけにはいかない。
俺は大人しく、そして有り難くパンツ様を履いた。デロデロのは袋に入れてゴミ箱ポイした。
そうして個室を出たら、顔を真っ赤にした和樹がいて……お互いとても気まずかった。
帰り道、俺達は近所の公園に寄った。ガキの頃遊んだそこはもう街灯が灯るような時間で誰もいない。ブランコに腰を下ろして、お互いしばらく無言だった。
「あのさ、今日のは、その……」
なんて言い訳したらいいか分かんないけど、とりあえずこの空気だけはどうにかしたい。何も言わないと圧死しそうな感じが嫌で口を開いた。
「なぁ、亮二」
「へ?」
突然名前を呼ばれて、俺は焦った。だってこいつ、高校入って突然俺の事「亮二」じゃなくて「正木」って苗字で呼ぶようになったんだ。これ、すっごく距離を置かれた感じがして嫌だったんだ。
「亮二は、その……男に興味あるのか?」
「え……とぉ……」
何が正解だよ、これ。何選んでも詰みだろ。
「ある」って答えれば間違いなく性癖ばれる。気持ち悪いとか思われる。
でも「ない」って言っても信憑性ないだろ。痴漢、明らかに男だったし。しかもトイレで俺、小声だったけど和樹の名前呟いてたし。
「あの、それは……」
「正直でいいよ」
「…………あります」
隠せないのに嘘つくのも嫌で、俺は認めた。そうしたらなんか、諦めついた。こいつとの友情は終わると思うけど、どっちにしても駄目な気がした。それに俺なら、ここまで決定的なのに嘘つかれんの、嫌だ。
和樹はなんか、色々考えてるみたいに黙っている。すんごい悩んで、難しい顔をしている。その様子を黙って見ていると、そのうちにスッキリと和樹が顔を上げた。
「明日さ、暇?」
「え? あぁ、うん」
「見たい映画があるんだ。行かないか?」
「えぇ?」
あの、この状況で一体どうしてそんなお誘いがかかるんですか?
でも真っ直ぐに見る和樹を見返して、俺はドキドキしている。なんか、都合良く期待してる? それともほっとしてるのか?
とりあえず今は拒まれていない。それが俺に取って何よりの救い。
「いい、よ」
了承したら、和樹はとても真剣に頷いた。
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