5 / 6
第5話 これってデートって言いません?
翌日、和樹は俺を迎えにきて、俺達はデート……で、ガチのホラーとか地獄でしょ!
忘れてた、和樹ってホラー大好きなんだ。しかも洋物のゾンビ映画じゃなくて、邦画のヒタヒタ迫ってくる系のやつ。
叫ぶ事もできなくて、でも怖くて、俺は指の隙間から映画を見て、音に驚いて和樹の腕にしがみついたりしていた。
そして和樹はそんな俺の腕をそのままにさせてくれた。むしろ手を重ねて触れてきた。
「昔っから、こんなにダメだったか?」
「うっ、昔よりダメになった……」
バーガーにポテトにコーラ。定番な昼飯を食べながら俺は顔が熱くなる。
こいつにに比べれば俺は小柄だ。でも男だ! 「亮二くんって、女の子に見えるね」なんてお世辞でも無理があるよ! それが……生まれたての子鹿みたいにプルプルして和樹の腕にしがみついて出てきた。正直、知らない人に笑われた。
「くくっ」
「笑うなよ!」
「ごめん。ただ、可愛くてさ」
この言葉に俺は勝手にドキドキだ。「可愛い」なんて平気な顔で言うなよ。俺、お前の事おかずにして抜いてる変態だぞ。
「可愛くないし」
「そう?」
「……変態だし」
小さな声で呟いた。だって、昨日の見たじゃん。俺、完全アウトだろ。今の状況が俺的にはむしろ異様なんだけど。
和樹を見たら、なんか困った顔で笑ってた。笑うところ違うから、これ。
「あの、さぁ。気を使ってるなら、いいから」
「亮二?」
「俺、その……多分どうしようもない奴だし……」
周囲をそれなりに気にして小さな声で言う。そんな俺の様子に気付いたらしい和樹が、バーガーの残りを口に放り込んだ。
「次行こう」
「次?」
「カラオケ」
「カラオケ!」
より個室、より密室。俺は焦ったけど、今日の和樹はすごく強引で、結局従うより他になくて残りを口に押し込みコーラで流し込んだ。
近くのカラオケは行き慣れている。俺は結構好きだから。
そうして入った店でとりあえずアイス注文して、適当に歌って。注文の品が来たところで、和樹は突然歌うのを止めた。
「え?」
「亮二、昨日のあれって……お前、興奮してたよな?」
「!」
いきなりどんな爆弾投下するのこの人!
食べていたアイスが変な方に入って咳き込みながらオタオタする。
俺変態だけど、確かに興奮してたけど、だからって身近な人に知られて冷静でいられるほど肝は据わってない。改めて確認取られるとか、地獄だ。
「いや、だってそれは……ほら、生理的に!」
「前は触られてなかっただろ? 乳首と、後ろ」
「わあぁぁぁぁ!」
何こいついきなり言うわけよ! 後ろって……いや、そうだけどね! 前も触られてませんね確かに! で、それで興奮して俺イッたよね!
脳みそボンしてる。湯気でそう。俺は俯いて、ただコクンと頷いた。
「いつから?」
「いつって……何が?」
「男に興味持ち始めたの」
和樹はとても真剣にぶっ込んだ事を聞いてくる。それを白状させてどうするつもりよ。
ちょっと開き直った。現場押さえられてるし、迷惑かけたし、隠しようがないんだからもういい。言って楽になる。あとはこいつの判断に任せる。
「多分、高校入ってから」
「多分?」
「……中三で、なんかおかしいとは思った。はっきり自覚したのが、高校入ってから」
うぅ、家族だって知らない俺の秘密なのに。
「隠してる……よな?」
「うん」
「だよな」
和樹はガックリと肩を落として更に考え込んでいる。俺は次に何が出てくるか、ドキドキしながら待ってた。
「昨日トイレで、俺の名前呟いてたよな? あれって」
「みなまで言うなよ。分かってるだろ?」
あの状況で、興奮した息づかいだって聞こえてただろ。それで名前呼んでたらアホでも分かるよ。
和樹は赤くなってた。口元に手を当てて、困惑したみたいに。
いや、分かるけどさ。俺だって逆の立場だったら困るよ。そっと逃げたくなるよ。逃げなかったお前はいい奴だよ。
「亮二は、その……俺で興奮するのか?」
「妄想だけだから。ってか、これからはもうしないから」
「いや、いいけどさ」
いいのかよ
「どんな妄想してるんだ?」
「それ、言わなきゃダメか?」
「おかずにしてるんだろ?」
「だからだよ!」
お前それ聞いてどうするんだよ。俺、これでも繊細なんだよ、変態だけど。妄想を口に出して披露する趣味ないよ。そこ、発信しちゃいけない部分だよ。
「例えば、キスとか?」
「うっ」
「基本だよな」
ちょっと、笑った。困った感じで、でも全然困らないよって嬉しそうにそっと、俺を壁際に追い込んで。俺は呆然と和樹を見上げたまま、受け入れていた。
「!」
衝撃映像だ。俺、和樹とマジでキスしてる? しかも、わりとディープなの。
「っ! ……ぅ」
唇を舐められて、くすぐったくて開いた隙間に舌を差し込まれて、そのまま絡まる。
俺の初キスはいきなり濃いめでクラクラする。涙目になって目を閉じたら、余計に舌が絡まる感じがリアルになって震えた。
「はぁ……ぁ…」
今の、何? 一瞬で気持ち良くてぼーっとした。腰、プルプルする。なんでこんな……しかも和樹から?
「気持ちいい?」
コクンと頷く。ここが何処かとか、今何時とか、全部ぶっ飛ぶくらい気持ちいい。多分今、立てない。
「この先も、想像したりしてた?」
「それは!」
耳元で囁くように言われて、俺はビクンとなった。
してたよ、凄くリアルにあれこれ。お前の体想像して、声とかも想像して、口に指突っ込んで舌絡めて、濡れた指で乳首自分で弄って、前も扱いて……そして、他も……
「亮二、お前の家って今、誰かいる?」
吐息がかかるような距離で聞かれて、俺は首を横に振った。和樹は知ってるはずだ。俺の家は共働きで、二人とも曜日関係なく仕事。親父も母さんも夜九時までいない。
だから昔から隣の和樹の家に厄介になって、飯食わせてもらったりしてた。
最近じゃ姉貴も土曜日遊びに行ってて帰ってこない。
「じゃあ、今から行ってもいいか?」
「えっと……それって?」
俺は思いっきり期待してるけど、そういう意味で捉えていいのか? ってか、和樹も俺でいいのかよ。
でも、多分いいんだ。だって俺の足に当たってる和樹の前、わりと硬くなってる。
クスリと笑った和樹が、俺の耳元でそっと囁いた。
「みなまで言うなよ」
ともだちにシェアしよう!