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第3話

「アンタは絶望しないんだな。もしかして運命の番とかいう都市伝説とか信じてる?」 話を聞いても動じた風でもない鹿狩の様子に、46番は面白がるように問いかける。 「まあ、ソレは実際に居るとは思っているけど…...、それで幸せになれるとは考えてはいないよ」 信じるとか信じないとかではないと答える横顔に、僅かに絶望に似た色を感じて46番は首をひねる。 ここに来たことには、全く絶望していないのに、オメガの誰もが願う都市伝説には、信じているのに絶望している。 「なあ、アンタはいいとこの子だろ。話し方が、すげえ丁寧すぎ」 「そうか?普通だと思うけど、そんなに変かな」 低いトーンの落ち着いた声で、雑そうに見えて仕草や動きには粗野さがない。 立ち振る舞いも、彼の近くにいる人種とはまるで違った。 どちらかと言えばここを訪れるアルファに近い。 「話し方がアルファみたいだ」 「俺と母以外は、家にいるのがみなアルファだったからかもしれないな。学校でもアルファしかいなかった」 自分以外のオメガに会うのは初めてなんだと返答した鹿狩は、堅いベッドに腰を下ろす。 噂ではすごく男でも綺麗な人間ばかりと聞いているけれどとつなげる。 「学校?普通の学校に行っていたのか」 「セルバンテス大学校に通っていた」 高学歴で有名な名前を出されて、46番は驚きで目を白黒させた。 劣等種のオメガが通えるようなところでは決してないのだ。 「無茶苦茶だな。そんなエリートが底辺まで落とされるなんて、どんな気分なんだ」 「さあ。あまり考えてはいないよ。俺にはクスリが効かないし、専門家に任せた方がいいと考えたが。内情は違うみたいだな」 「さっき話した通りだ。そんなに綺麗に生きてきたアンタが壊れないといいと思うけど、辛かったら泣き言くらい聞くぜ」 清廉とした横顔が、この施設で壊されるのかと考えると、勿体無いと思う。 けれど、生きていく為に慣れなくてはいけないのだ。 「そろそろ君の名前を聞きたい」 首を傾げて黒い瞳で見返されるとそれ以上拒めずに、46番は軽く息をついた。 「オレはザナーク、スベク、売り手が決まるまでよろしくな」

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