5 / 34
第5話
無味乾燥。
トレーに無造作に置かれて運ばれてきた食事はらパサパサとする干からびたパンと味の薄い具がほとんど入っていないスープを啜って、鹿狩は眉を寄せた。
家ではお抱えのシェフがいたし、外でもこんな料理には出くわしたことがない。
犯罪者には、こんな扱いなのだなと納得しながら腹におさめる。
すべて食べ終えると、両手を合わせてごちそうさまと呟く。
「ぶはっ、スベク。ホントに礼儀正しいよな」
「あれ?ごちそうさまの挨拶とかしないのか」
首を捻って、トレーを扉の前に戻しながら問い返す。
「しねーよ。つか、アンタにはホントに今のままでいて欲しいんだけどな」
残念そうに言うザナークに、鹿狩は床に腰を降ろすとおもむろに腕立て伏せを始める。
「な、何してるんだ?」
「いや、食後の運動だが。身体が鈍るといけない」
「そんなに鍛えてどうするんだよ」
さらに嫁の貰い手なくなるぞと告げると、それは困るなと言いながらも腕立て伏せをやめない。
「まあ、アンタの身体はホントに引き締まっていて綺麗だとは、俺は思うけど」
「ありがとう。それにしても、暇だな。何か本でもないだろうか」
「看守に言えば、データベースくらいは貸して貰えるかもだけど.....、取引きをもちかけられるかもしれない」
「取り引き?」
背筋をはじめながら、問い返すと座なは視線をさまよわせて、
「看守は、俺たちを人間とは思ってないからな。何かをしてやろうとか考えてない。なにか欲しい時は、身体で取り引きをしないと」
ザナークの言葉に、ひまを潰すねも大変なんだなと鼻先をかいて殺風景な部屋と、何も私物のない様子に納得したように頷いた。
「うまくやってる奴はいるけど、俺は媚びるのは得意じゃない」
だから5年以上もここにいるんだけどと呟き、そろそろ安値で買い叩かれちまうかなとぼやく。
「なあオークションは、何処で行われてる?」
興味深そうに尋ねる鹿狩に、少し考え込みザナークは答えた。
「足がつかないように、仮想空間とかじゃないか」
「なるほどな。こっちからハッキングでもすれば、改竄も出来るな」
「何を考えてる?」
大体ハッキングをするための道具も何も無い。
服すら与えられず素裸の自分たちに、為す術もない。
「いや、この身体をすらりとした美少年に見えるようにデータを書き換えれば、俺でも売れるかなってな」
「ははっ、何アホなこと真面目に考えてんだよ」
「まあ、仮想空間にアクセスしているアドレスを搾取すれば、色々出てくるんだな」
アホと言われたが、気にした様子もなく腹筋を始めながら、ひとりごちで呟く。
「詐欺じゃないか」
「ははっ、そうだな。詐欺でもしなきゃ、外には出られないだろうな。.....取り引きか」
腹筋運動を繰り返しつつ、鹿狩は繰り返し呟いていた。
ともだちにシェアしよう!