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第14話

看護師にキビキビと的確な指示をくだし、テキパキと処理をする姿は、衣服さえきていれば手馴れた医師にも見える。看守たちは唖然としつつも、ザナークの様子が快方に向かっているようで安堵していた。 責任問題は確かにあった。薬を勝手に使ったと口上すれば、入手ルートを特定する必要があり、トカゲの尻尾切りではすまなくなる。 不審死は本庁から検察を呼ばなくてはならず、鑑識が必ず入る。彼の行いは看守たちにとっても助け舟だったのだ。 しかし、何故.....。 看守長は先程口にした鹿狩のIDを照会にかける。 【ID56237JN6321 従軍医 鹿狩統久 医療、薬事従事については全て許可 】 従軍医とは、野外での医療も全て許されたトップクラスの医者であり、軍直属での医療の経験者である。しかも従軍時は16歳という若さである。オメガがそんな経歴はおかしいし、何故この施設に来ているのかも謎である。 「処置は全て終わりだ。なんとか命は取り留めたが安静が必要だし、暫くは衰弱したままだから無理はさせないでくれ。さて、俺は処罰を受けようか」 額の汗を手の甲で拭い、鹿狩はやり切った表情を浮かべて看守の肩を叩く。 看守たちは、どうするのだという視線を看守長へと向けるが、看守長は分かったと頷く。 「懲罰房に連行しておけ」 「しかし.........」 「規則は規則だ。例外は秩序が乱れる」 ざわつく看守たちに、きっぱり告げると、鹿狩は口の端を引き上げて笑う。 「あ、ザナークにはちゃんと栄養剤を点滴してくれよ。ケチなことをしたら後悔するからな」 ザナークが目を覚ましたのは、それかは五日後の事だった。 「スベクが、懲罰房に....?!そんな......」 看守に全てを聞くと納得いかないようにザナークは声をあげた。 命を救われた、のか。 「遠野様のお気に入りだからそんなには酷いことはされていないだろうから安心しておけ。それより59番は、何者なのだ」 「俺には分からないけど、スラムにはいないタイプ。すごい世間知らずだよ」 酷いことをされてないと聞いて安心して、ザナークは口を開いた。他人の為に自分を犠牲にするなんて馬鹿なことをする輩は、スラムのオメガにはいない。 自分だけで精一杯なのだ。 「軍経験もあるようだ。学生で軍に徴兵されるのは特権階級の子息のみだ」 「特権階級.....。そういや、大学に行っていたと言ってたな」 ぼんやり聞いたことを思い出す。オメガを大学に入れるなんて中々余裕がある過程でないとできない。 「何故この施設にきたのだ」 看守とザナークは思わず同時に呟いた。

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