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第17話
無表情のままで、しかし手に込めた力はそのまま眼球を抉るとばかりのもので、遠野は喉を鳴らして額に脂汗を浮かべる。
脅しではない。
ノーと言えば鹿狩は躊躇うことなく、眼球を抉るだろう。
彼の知っている鹿狩統久は、飛び級で13歳で大学にあがってきたエリートで、警視総監の息子である。頭脳ばかりではなく身体能力もずば抜けていて軍役経験もあり、受勲をしたと輝かしい実績ばかりだった。
周りも彼をアルファだという扱いしかしていなかったはずだ。
抱いた彼なら分かるはずと告げた意味。
オメガ特有のフェロモンは、性行為に普通と異なる影響を与える。我を忘れるような恍惚感は、ベータやアルファ相手には得られないものだ。
抱けばわかる。
「ここで君にいい様に話をして、裏で君を暗殺するかもしれないよ。私にはその力がある」
「そうでしょうね。でも、俺にも切り札がないわけではない。負ける戦いはしない主義ですよ。俺が、この収容所で死んだら、データはそのまま父のアドレスへ飛びます」
静かに告げて唇の端をあげる。
「しかし、どちらにしても私だけデータを削除されたら、流石に周りから不審に思われて、私も裏で抹殺されるだろう」
どちらにしろ終わるならば、鹿狩に死の制裁を加えた方が気が済むのだと遠野は強い視線を返す。
特権階級の修羅場はそんな生易しいものでは無いのだと見下す視線に、鹿狩は首を横に振る。
「ある程度害のなさそうなデータは間引きしておきますよ。俺がそんなわかり易い配慮もできない無能とか思いますか」
首の後ろに腕を回して顔を寄せると、切れ長の目を遠野に合わせる。
「分かった.....君と取引きをしよう。私は君の素性を黙っている。それだけでいいか?」
「もっと.....協力してほしいな。データベースだけでは証拠が薄い。オークションのシステムへのアクセス状況を知りたい。裏から全部潰すつもりだからね、だから、オークションで俺を買ってくれないか。金は後で返すよ。派手につり上げてくれ」
「.....そこまで君に協力して、私には他になにかメリットがあるのか」
メリットのないことに関して危険は負いたくないとばかりに遠野は首を横に振って、鹿狩の唇を舌先で舐める。
「.....データの削除と隠蔽以外にか?強欲な男だな。そうだな、愛人にはなる気はないが発情期には、薬代わりにしてやってもいいぞ」
滑らかな肌を押し付けてメガネの先セルを少し逸らしてから、誘うように腰を押し付ける。
張りのある肉の弾力に目を細めて、鹿狩の腰にぐいと腕を回す。
何がなんでも愛人にしたいと思うくらいは、惹かれてたまらなかったのだ。
「.......なるほど。君の家柄ならば、正妻に迎えてもいいが」
触れた唇を軽く吸い上げて、遠野は甘く囁く。
「勘弁しろよ。他に簡単に愛人を作りそうな男は願い下げだ」
ふわりと香るフェロモンに、吸い寄せられるように唇を開いて舌を絡ませて、ソファーに身体をもたれて求めるように視線を向けた。
「分かった.....取引成立としよう」
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