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第26話
「運命の番ね。そのようなものは都市伝説だと思っていたよ。君はこんなとこにいるのに、それは本当なの?それとも口実かな」
鹿狩の身体をタオルで拭き取りながら、遠野は意外そうな表情を浮かべた。
運命の番がいるのならば、こんなところにいること自体がおかしい。
むしろ運命の番と出会ったら、何がなんでもアルファが手放すわけがく、大体はすぐに結婚するはずなのだ。
「君は運命の番とはつがわないのか」
「つがわないよ」
汚れた身体を見下ろして、鹿狩は皮肉じみた表情を浮かべ唇だけで笑う。
べとべとしていて、気持ちが悪くて仕方がないな。
「俺は運命の番である弟をレイプしたから、ここに来たんだよ。俺の精神力でも運命の番のフェロモンには太刀打ち出来なかった」
自嘲気味に話すがどことなく後悔というよりも、潔いような口調に違和感があるなと遠野は訝しんだ。
「確かに....近親婚は、禁忌だな」
遠野は半ば同情の瞳で鹿狩を見返した。
「分かるだろ。禁忌だとしても運命の番を知っていたら、そいつしか愛せない.....。いくらプロポーズする気があったとしてもだ、気位が高いアルファがそれに耐えてくれるのかな」
世間では決して許されることのない禁忌と、抗えない本能とでずっと板挟みだろう。
「確かに耐えらんな」
遠野は素直にそう返すと、軽く吐息をついて鹿狩の髪を指先で優しく撫でる。
「運命の番が禁忌で、抑制剤も効かなくて.....希望も何も無いだろう.......。嘘でも愛を囁ける器用さもない君が哀れでならないよ」
遠野は、同情するかのように鹿狩を見下ろして哀れみの目を向けるのに、鹿狩は鼻先で笑う。
「安い同情は要らないな。俺は天才で身体能力も抜群で、しかもかなり容姿も良い。オメガであるくらいのハンデは屁でも無いな。嘘をついてまで、自分が楽になるとかは考えたくない。お前に話をしたのも、プロポーズなどされたら断るのが面倒だからだ」
タオルで身体を拭う様子に、ちらと視線を合わせると、ドヤ顔までして見せる様子に遠野はぷっと吹き出す。
「さっきまで可愛かったのに、憎らしいな」
「安心しろ、薬代わりのセフレにはしてやるから」
ふんと鼻を鳴らして告げられて肩を聳やかす。
「それは、光栄ですよ。王子様」
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