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第29話

「59番、大丈夫か」 身体が発熱したように全身が震えて仕方がない。看守もマスクをしているが、フェロモンがすごいのだろう。 頭の中では何も考えることができず、ただ体の中が疼いて仕方がなく、首を振ることしかできない。 20億とか相手に揉み消されたら、買い戻しもできないだろうし、ヤバすぎる金額に打ちのめされているが、身体はそれどころではない。 「59番、本来なら引渡しは後日になるのだが、先方から早く引渡して欲しいと言われていてね。額が額だけに断れないのだ」 ストレッチャーから鹿狩の身体を下ろして、着てきた服を着せていく。 端末をいじる時間も、対策を考える時間すらもないのか。頭の中ももう欲望しかなくてどうにかなりそうだ。 鹿狩は焦るが身体を動かすこともできずに、腕を拘束し直されてアイマスクを再びかけられる。 「とてもお金持ちの方だから、きっと幸せになれるよ」 看守は鹿狩を励ましているのか背中を軽く撫でて、声をかけてくる。 俺だけのことじゃない。 失敗なんかするわけにはいかない。 「.....おれを、らくさつしたのは、とおのさま?」 「いや.....彼ではないよ。君に良くしてくれたからね」 看守は同情するように首を横に振った。 「わかれの、メールを.....」 「そうだな。それがいい」 看守は端末を取り出して拘束とアイマスクを外すと、震える鹿狩の手に手渡した。 遠野の能力ならば、俺がこたパスワードを解くことができるはずだ。 鹿狩は端末に指を這わせて、短い言葉と、数字と記号を羅列させて、遠野のアドレスに送信した。

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