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第32話
視界一面を覆い尽くすような真っ白な空間に、ゆっくりと目を開いた鹿狩は、驚いたようにぐるりと視線を彷徨わせた。
「気がついたかい」
顔を覗きこむのは、白衣の紳士で鹿狩の記憶にはない人物だった。
「ーーッ、こ、こは」
出した声は嗄れていて、空気に耳障りに響いて、鹿狩は頭の中に残る記憶を、処理能力を総動員してパーツを集める。
「ここはセントラルメンタルメディカルセンターだよ。記憶はあるかな。名前と生年月日を言ってごらん」
頭のどこかで本名を名乗っていいものかと逡巡するが、周りにある設備とドクターの身なりを確認してから鹿狩は、射抜くような目を向ける。
「ドクター、貴方を信頼していいのか、俺は今迷っています」
「確かに、あのような事件に巻き込まれたのだからね。君の迷いも最もだよ。覚えているならば問題ないかな。君の家族も来ている」
ドクターは名を名乗らなくても良 いと伝えて、白い扉を開いて外に顔を出すと、星間警察の制服姿のいかつい男性と一緒に入ってくる。
見知っている、忘れようもない顔に鹿狩は目を見開き喉を鳴らした。
「父さん.....」
「.....統久、あれほど無理をするなといったのを、お前はちゃんと聞いていたのか」
心配するような表情と、厳しい言葉に鹿狩は俯いてごめんなさいと言葉を返す。
星間警察のトップで総監である彼の父親は、施設に収監される前に施設の内情を探るように、鹿狩に依頼をしていたのである。
「最善策とは言えない状況になってしまいました」
「まったく、誰に似たのか…...。まあ、お前のお陰で人身売買のシンジケートを一網打尽に出来たよ」
溜息をつきながらも、良くやったなと頭を撫でられて、鹿狩は照れくさいような表情を浮かべる。
「お前は暫くはセラピーを受けて、ケアをおこないなさい。」
「.....わかりました。あの......更生施設はどうなりましたか」
「管理者クラスは拘留して、裁判待ちだ。お前にも裁判には出廷してもらう。看守たちは、解雇になった。収容者は、別の健全な施設に送ったよ」
萎縮しながら聞いてくる息子に、父親は肩を聳やかす。
「お前はこれからどうするんだ」
「.....どこかの施設に行きますよ」
どうせ薬が効かないからと伝えると、父親はちらとドクターを見やる。
「このドクターは、精神的な部分でのケアの一任者なのでね、抑制することはできないがコントロールを教えてく くれるそうだ。それと、もう施設ではお前を収監することはできないらしい」
「え.....?」
「どこもスパイ紛いの囚人は受け入れ拒否だそうだ。」
苦笑いをする父親に、鹿狩はふと視線を落とすと、
「.....そうですか。シンジケートは潰せたかもしれないが、その後ろにある組織は潰せてはいないですよね」
今回の一連の背後にある大きな組織は、辺境で活動しているのを知っている。
「あそこの情報までは、信ぴょう性のあるデータは無くてね」
「俺は辺境部隊に行って、それを潰したい。コントロールの仕方をマスターしたら、入隊の手続きをしていいですか」
施設にいたオメガたちの現実を少しでも変えるためには、元から経たなければ何も変わらない。
「.....その身体でか?」
「ヒートのコントロールさえ出来れば、俺は普通よりは優秀な隊士になりますよ」
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