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第16話 エトワール(2)

【エトワール(ルーカス)】  ルーカスは再び外へと目を向ける。そこからは、穏やかな月が見えている。  その月を見ていると、ふと先程のリューヌを思い出した。自然と波立つ気持ちが凪いで、穏やかになっていく。触れた手の感触まで、覚えているようだ。 「何やらご機嫌だね」  自然と笑みを浮かべていたルーカスを見て、ジョシュは不思議そうに問いかける。それに、ルーカスは穏やかな笑みを浮かべ、更にリューヌを思い出して幸せそうに瞳を緩めた。 「双子星に会ったのだよ」 「え!」  思いがけない言葉だったのか、ジョシュが勢いよく立ち上がる。そして途端にソワソワし始めた。  それというのもルーカスは女の気配が一切ない。今年で二六、そろそろ結婚も考えなければならないのだが、まったくその気がない。他に兄妹もないせいか、周囲はとても気にしているのだ。 「その双子星は一体どこへ? もしや、タニスの人かい? だとしたら、早くこの国を落としてしまわないと。ルーカス、名は聞いているんだろうね。どこに住んでいるんだい?」 「まぁ、落ち着けよ」  焦り取り乱すジョシュの様子を面白がるように、ルーカスは声を上げて笑った。そして、気の毒な従兄弟に種明かしをした。 「詩人を縛るような不粋は嫌われるぞ」 「詩人…なのかい?」  途端、ジョシュは沈んだ顔をする。彼も詩人がどういった存在か理解している。世を捨てた者が結婚など、考えるはずがない。勿論旅暮らしだ。所在を掴むことも難しいだろう。 「…いや、それでも何とか説得してみなければ。特徴を教えていただければ、探させて」 「彼はとても美しい、月よりの使者のようだった。俺はあれほどに美しく、心穏やかにしてくれる相手に今まで出会ったことがない」 「…彼?」 「あぁ、彼だよ」  面白そうな笑い声に、ジョシュはがっくりと肩を落とす。そして、何とも恨めしい目でルーカスを睨み付けた。 「貴方の双子星は男だとでも言うのかい?」 「そのようだ。だがこれは確信だ、彼が俺の双子星。願っても手に入らない、遠くに見るより他にない星さ」  だが、もし叶うならば手元に置きたいとは思った。引き止める事もできなかったが、今ここにきて何故強引にでも手を取らなかったのかと、後悔し始めている。 「美しいリューヌは、そう簡単に手に入らない。だが、そうだな…。俺がこの国を一つにできた時には、改めて探してみようか」  彼はタニスの民。世を捨てたとは言え、ルルエ国王である自分を受け入れてくれるとは思えない。平和に二国を統一した後だ。 「何故この時期に、このような場所に詩人がいたんだい?」 「ここが故郷らしい。不穏な噂を聞きつけて、望郷の思いにかられたそうだ」 「詩人が?」  どこか不思議そうにジョシュは首を傾げるが、ルーカスはそうは思わなかった。  詩人もまた人。誰かの心を動かす詩を伝える彼らの心は実に繊細で、豊かだと思う。いくら世を捨てたとて、初めから詩人であったわけではない。望郷の思いくらいはわくだろう。 「人を思い、過去を思う事もあるだろう。詩人とて人だ、心が無いわけではない」 「確かにそうだけど…未熟だね」 「おそらく年齢的に、俺と同じくらいだろう。若い詩人だった。もしかしたら、旅を始めて日が浅いのかもしれない」  それならば、もしかしたら傍にいてくれるかもしれない。ふとそんな事を思ったルーカスは、すっかり心を奪われた事に苦笑する。そして、振り切るように立ちあがった。 「休むかい?」 「あぁ、そうする。部屋は適当に使う」 「王の寝室が開いているけれど?」 「冗談。そんな事をすれば、古の女王が俺を呪い殺すだろうよ」  憎き王とその愛人の子孫。それがルルエ王家なのだから。

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