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第21話 妖しき夜会(3)
「その海賊の噂は、下町や港の酒場ではよく聞くよ。なんでも、大商人グリオンを狙っているとか」
「ほぉ?」
レヴィンの言葉に、ユリエルは鋭く冷たい笑みを浮かべた。
ユリエルは件の商人を知っている。何度か品物を城へ売りに来たことがあるが、どうにも好かない相手だった。絡みつく視線も、あからさまな世辞も、媚びる姿勢も全て気に食わなかった。
役人を買収し、船員や荷を誤魔化していたのはこのグリオンを頭とする商人達だった。ユリエルは疑っていた。今回ルルエ軍を引き入れたのは、こいつではないかと。
「噂で聞いたことがあるな。その商人、元はマコーリー家の下男だったとか。彼の家が惨事に消えた後で、突如頭角を現した故、黒い噂が絶えぬ男です」
マコーリー家の悲劇は、タニスでは有名な話だ。
裕福な商家だったマコーリー家は人望もあり、貧しい者に施しをし、仕事を斡旋していた。だが、今から五年以上前に突如屋敷が業火に消え、一家は死亡した。
この火災には多くの疑問が残る。火元が分からない事や、家にいた者が誰も逃げられなかった事だ。そのせいで、今も色々な噂がある。
「あまりの悲劇に未だ屋敷の跡地は当時のまま。なんでも、亡霊が立つらしいよ」
「亡霊、ですか」
ユリエルは腕を組んで眉根を寄せる。
ユリエル個人は亡霊などというものを信じていない。死ねば等しく土に返り、国籍も罪も現世では許される。その考えがあるから、ユリエルは死ねば敵も味方もなく安らかな眠りを願い、等しく弔っている。
おそらくその屋敷跡に現れる亡霊も、死人ではないだろう。そう考えている。
「グリオンの身柄を引き渡す事を条件に、こちらへの協力を取り付ける事ができそうですね」
「民を売るのですか?」
シリルが不安そうに問う。その目には多少の非難もあった。だが、ユリエルは臆する事はない。叩けば埃まみれだろう。
「まずは彼らと話しをして決めます。罪があれば引き渡しも考えます。まぁ、これだけ追い回されているのですから、全くの無罪とは思えません」
「他に要求された場合は、いかがいたします?」
「要求によりますね。あまりに対価が多ければ、やはり捕えてしまいます」
どちらに転ぶかは賊しだい。ユリエルだって協力を願う者に理不尽な事はしない。契約として成立できる内容ならば、それで丸く納めるつもりだ。
「では、その危険な旅路を誰とするおつもりかな?」
レヴィンが楽しそうなので、ユリエルも遠慮なく彼を見る。この様子では、既に何かを期待しているようにしか思えない。
「お前がきなさい、レヴィン。危険を承知の強行軍でよければ」
「それは楽しみだね。是非ともご一緒いたしましょう、ユリエル様」
慇懃に礼をするレヴィンを不安そうに見つめるのはシリルだった。心配そうな顔をしている。その様子に、ユリエルは少し驚き、そして微笑ましく笑った。
「さて、それでは当面はこの方向に。分かっているとは思いますが、ここでの話は他言無用。もしも漏らせば、首はないと思いなさい」
ユリエルの厳しい言葉に、その場にいる全員が顔を見合わせ、そしてそれぞれ強く頷くのだった。
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