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第23話 動向(2)

 その夜から一週間、事態は大きく動いた。 「王太子自らが、砦を出るのか?」  密偵からの報告を受けて、ルーカスは驚いた。これにはジョシュも同意見だった。 「最近、聖ローレンス砦から兵が出ては帰るを繰り返しているそうだ。出て行った兵を追って町で聞き込むと、近々王太子がその町に滞在するという話が宿屋などから出てきた」  報告を受けたジョシュは、何とも言えない顔をしている。自身の部下を疑うわけではないが、これを鵜吞みにしていいかは判断に困るところだ。 「宿から情報が出たのか?」 「そのようだね。どうやら、口止めはしていないようだ。何かあると考えるのが普通かな」  ジョシュは疲れたようにソファーの背もたれに体を預ける。ルーカスも眉間に皺を寄せて考え込んだ。 「どう思う、ルーカス」 「誘っているだろうな。動けと言わんばかりだ」 「僕もそう思う。ここで動くのも癪だけど、まったく動きなしというわけにもゆかないかな」  やはり嫌な相手だと、ジョシュは深々と溜息をついた。  一斉蜂起の準備と、士気向上を狙っての王太子の訪問と考える事もできる。だが、そんなに単純な事か? どうにも深読みをしてしまう。 「こちらの足元を見られているな。王都を支配しきれていない今、兵を大きく動かす事はできないと、あちらも読んでいる。何より進軍となればそこに至るまでの砦から攻撃を受けかねない。大軍は動かせないと考えての行動だ」 「ほら、性格が悪い。こういう事をするんだよ、ユリエル王太子は。明らかにあちらが劣勢だというのに、こちらを嘲笑うように動くんだ。もう、僕は疲れるよ」  大げさな嘆きように、ルーカスは気の毒そうに笑う。が、彼の言い分もわからなくはない。  駆け引きを持ちかけられている。こちらがどう動くかを、ユリエルは待っているのだろう。大きく軍を動かす事はできない。では、どうする? 「…俺が出る」 「王自らが御出馬を? それほどの事かい?」 「見過ごせば本当に蜂起の芽となりかねない。何より、奴が何を狙っているのかが今の段階では不明瞭だ。現場で指示を出す事もあるだろうからな」 「それは、そうだけど…」  ジョシュはあからさまに不満な顔をする。王であるルーカス自らが前線に出て危険を冒す事を心配しているのだ。 「部下を二十連れて行く。少人数ずつ、周囲に溶け込めるよう変装のうえで移動させ、周囲の森で落ち合うようにする。これで砦の警戒も突破できるだろうし、町にも入りやすい」 「確かにその方が安全ではあるけれど。でも」 「心配するな、深追いはしない。俺は見てみたいんだ。タニス王太子、ユリエルという人物を」  もしかしたら、見る事が出来るかもしれない。姿も知らぬタニスの王太子を、遠くからでも。  そこまで言われると、ジョシュも諦めたように肩を落として了承するしかない。そして、さっそく優秀な部下を二十人選び、それぞれに変装をさせ、随時数人ずつを出す準備を始めるのだった。

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