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第26話 踊り子(2)
【ユリエル】
一方宿の大部屋に入った赤毛の女は、そこで待っていた赤毛の青年を見ると鋭い笑みを浮かべた。
「似合ってますよ、姐さん」
「当然です」
傍に寄ったレヴィンは、その手を取って口づける。それを冷ややかな笑みを浮かべて見下ろした女は、手を引いてこれ見よがしに外套で拭った。
「あ、酷いな殿下」
「次にそれで呼んだら後悔しますよ。座長と呼びなさい」
「了解、ユーナ姐さん」
悪戯っぽく笑ったレヴィンに、女装したユリエルは満足げな顔をして、同じく驚いている四人の部下の輪に入っていった。
「それにしても、まさか女装とは思わなかったよ。言い出した時には正気かと思ったけれど、こうしてみるとそそるね」
しげしげと見つめるレヴィンが揶揄い半分に言う。大部屋といえど、まだ日が高い。ここにいるのは彼等だけだ。
「その胸、詰め物?」
「当然です。どこぞの国では男を女のようにする医術があるそうですが、生憎そうした予定はありませんから」
「どっちでも違和感ないのが凄いよね、ユーナ姐さん」
軽口をたたくレヴィンを見る他の四人は、面白いくらいに顔色がなくオロオロしている。まぁ、女装した上司を冷やかす同僚なんて、いつ爆発するか怖くて見ていられないだろう。
「さて、先程までは追っかけがいたようですが、この宿には?」
「いるよ。話した感じ、悪い人じゃないんだよね。あーいうのは、あんまり相手したくないんだよ。ないはずの良心が痛むから」
そんな事を言いながらも、レヴィンの瞳はギラリと光る。見ているユリエルは苦笑しながら頷いた。
「さて、ここからは旅芸人ですからね。稼ぎに行きますか」
「姐さんも何かするわけ?」
驚いたようにレヴィンが問うのに、ユリエルは人の悪い笑みを浮かべる。
今回は旅芸人ということで、彼らはここ数日あちこちで芸を披露していた。レヴィンはジャグリングでもなんでも得意だし、他の面々も歌や踊りや一芸やと、器用だ。今回の同行者はレヴィン以外、芸が出来る者を選んだ。
だが、ここにユリエルが入るというのは驚きだ。だが、当人は当然のように外套を脱ぎ、セクシーな体を惜しげもなく晒す。
「踊りでも歌でも楽器でも。何ならお前が私の相手をするかい?」
「遠慮しとくよ。妖艶すぎて毒に当たりそうだ」
そうは言うが、滅多に見られない姿をマジマジと見つつ、レヴィンは立ち上がる。そして一同は意気揚々と、町の広場で芸を披露し、拍手喝采と相成ったのであります。
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