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第41話 愛情の確かめ方(4)
沸き起こる衝動を今しばし押しとどめ、ルーカスはリューヌの足を割り開き、濡らした指を秘められた部分に伸ばす。
そこは綺麗なバラ色をしていて、まだ硬く閉じている。まだ誰も触れたことがないと、すぐに分かった。だからより慎重に、そっと指でなぞる。
周囲からゆっくりと解すようにした指は徐々に中心へと迫り、何度も濡らしては促した。
「もどかしいですね。それに、恥ずかしい」
確かにこれは恥ずかしいだろう。だが、言いはしても抵抗はしない。全てをルーカスに委ねるリューヌに笑いかけ、指先をほんの少し押し込むようにして入口を解した。
「も…いいから、深く!」
口を解すばかりがよほどじれったいらしく、嘆願のような声を上げるリューヌは、身を捩って求めを口にする。淫らな姿に煽られないわけはない。
ただ、戸惑いもする。痛むのは明らかだ。だが、誘い込まれる瞳と肢体に、乗らぬ男はいないだろう。
「痛むぞ」
「いいから…」
許しを得て、ルーカスは一気に深くまで指を埋めた。ほんの僅かに眉根を寄せ、熱い息を吐いたリューヌは、だが予想よりも痛まないのかすぐに悩ましげな声を上げる。
内がとても熱く狭い。吸い付くようにピッタリと、ルーカスの指を咥え込んでいる。そこを丁寧に寛げ、押し広げ、痛まぬ様にと気を配った。
「とても熱い。リューヌ、辛くはないか?」
「平気、です。でも、熱い…」
熱を帯びる瞳が見上げ、漏れる声を隠せずに熱い息を吐く。それは行為が進めば進むほどに隠せなくなっている。
何度か抜き差しを繰り返し、奥を探っていく。そして、深く熱いその先に、確かな感触を見つけた。
「あぁ! あっ、はぁ…」
嬌声が上がり、細い肢体が弓なりに跳ねる。ガクガクと震える体を抱きしめ、ルーカスの欲情も一気に煽られたように思う。
寛げる指を増やし、奥を探り、良い部分を掠めるように攻めたてる。
もう、リューヌは声を殺す事はできなくなっている。官能的な声だ。強すぎる快楽を逃がすように乱れる姿も魅力的だ。
「いいか?」
「いい、から」
指を抜き去り、熱くなった己を押し当て、押し進めた。きついそこはルーカスを拒むように狭いが、僅かに受け入れた所からじわりと痺れるように感じた。
辛そうに悲鳴を上げたリューヌの髪を撫で、唇を重ねる。ほんの少しでもいい、その辛そうに閉じた瞳が和らぐようにと。
「もう少し、楽にしてくれ」
そんなに辛そうにされると、心が痛む。
過去相手をしていた少年も、無理をすればこのように苦しんだ。あの当時はあまり感情が動かなかったが、今はとても苦しい。
背を撫でて、髪を撫でて、気が逸れるようにとキスをして、そんな事しかできない事が辛く思う。
ふと、求めるように背に腕が回った。僅かに開いたジェードの瞳が、涙に濡れてこちらを見て、弱いながらも微笑んでくれる。これだけが、とても幸せに思えた。
時間をかけて繋がりを深めて、ようやく一つとなった時には互いに汗だくだった。深く繋がるという事は、快楽以上に温かな気持ちを繋ぐ行為だと今は感じる。
こんなにも幸福な気持ちで満たされるものなのだと、ルーカスは腕の中の大切な人を抱いて笑みを深くした。
「大丈夫か?」
よほど負担の大きいリューヌに問いかけると、柔らかな笑みが返ってくる。繊細な細い指先が、頬に触れてきた。
「心配はありません。どうか続きを…」
その求めに、ルーカスは頷いて腰を引いた。軽く、緩く引いて、同じだけ突き上げる。
「あぅ…はぁ、あ…」
ルーカスはリューヌの長い足を担ぎ上げ、深く突きいれた。こんな名器はお目にかかった事がない。狭いそこは熱く、よく締め付ける。あまり無理に動けば壊れてしまいそうだ。だが、大事にすれば溺れさせてくれる。
徐々に深く角度を変えて、柔らかな部分の奥にある硬いものを貪っていく。
「はぁ、あ…ぅ、あっ…エトワ…ル」
「リューヌ…」
互いに熱っぽい声で囁き合い、潤んだ瞳を見て唇をかわした。深く交わり奥を突き、快楽を貪って気持ちを繋げた。それは最後まで、とても深い交わりだった。体も、心も。
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【ユリエル】
裸の体を寄せ合って毛布にくるまった。息も整い、穏やかな余韻を甘えて過ごしている。エトワールの腕の中で、ユリエルは惚けていた。それはとても幸福な時間だった。
「後悔は、ないか?」
不意にそんな事を問われ、ユリエルは驚いた。そして次には、笑ってしまった。あんなに激しく求め、求められて最後まで愛し合ったというのに、今更後悔なんてあるはずがないのに。
「あると思いますか?」
ユリエルは愛らしい声で呟く。思ったほど声が出ない。掠れた声だ。だが、それすらもこの時間を思わせるようで、愛しく感じた。
「恋人のようだったかと、不安に思ったんだ。あまり、優しくはなかったように思えて」
とても頼りなく、金の瞳が見下ろしてくる。さっきまでの強い男のものと同じには思えない。
抱かれている間はずっと、この瞳が熱く熱を持って見つめ、優しくも雄々しく感じていたのに。
それに、なんの不満があるというのか。こんなに大切に抱かれて、心を貰って、愛されたのに。
「貴方は私を抱いて、後悔があるのですか?」
「そんなはずはない!」
「ならば私にも、後悔なんてありませんよ。安心してください。…とても、温かな時間でした」
瞳を閉じて、彼の鼓動を聞く。こんなに穏やかな場所を得られたのだから、何の文句があるというのか。
ユリエルは離れがたい思いを抱かずにはいられなかった。こんなに欲してしまって、今後どうしてゆけばいい? 旅人を縛るなんて、不粋な真似はできない。だからといってこれは仮初の姿。共に旅に出る事も許されない。
「よわったな…」
不意に、エトワールが呟くのを聞いた。ユリエルは顔を上げ、彼を見る。その先では整った顔が、困ったというふうに眉を寄せていた。
「離し難くなってきた。だが、君を繋ぎ止めておくこともできない。何とも歯がゆい」
同じ思いを持っていた。その事に、ユリエルはとても幸せを感じた。
注ぎ込まれる温かな感情を、己の意思で絶たなければならないのは何とも悲しく辛い。だが、そうするより他にはない。今できるのはせいぜい、再会の約束をして互いを思い、恋しい気持ちがこれ以上募る前にこの場を離れる事だった。
「約束を、いたしましょう」
柔らかな声でいい、向けられる金色の瞳を見つめ、ユリエルは笑みを浮かべた。
「月の綺麗な夜には、今日の日を思い、互いの無事を祈って、再会を神に願いましょう。たとえ離れたとしても、同じ月の下にいる。互いを、傍に感じられましょう」
「…あぁ、誓おう。月の夜は君を想い、無事を祈り、再会を神に願おう。そして再会できたならば、またこうして傍にいよう」
互いに誓った。そして、もう一度唇を重ね、愛しく離れがたい気持ちを自制した。欲求以上に強い自制心がさせた、悲しい決断だった。
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