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第80話 悲劇の前夜(ルーカス&ユリエル)

【ルーカス】  遠く、ルーカスは空を見ていた。薄い雲が月を隠し、その姿を見る事ができない。それはまるで、今の心のように思えた。  一人の室内はとても静かで寂しく、人恋しい。ルーカスは布団に潜り込み、手繰り寄せるように抱きしめる。  自分一人の体温が虚しい。傍にいて欲しい人の姿はない。あるのは影だけ。思い描く幻像だけ。 「リューヌ」  君はこの空をどう見る。悲しく思うだろうか。  俺には、心を映したように思える。戦など、君は嫌うだろう。それを今、行おうとしている。軽蔑するだろうか。  次に会う時、どんな顔をしていいか分からない。だがそれも、明日生きていればの話だが。  そんな事を考えながら、ルーカスはぶつりと思考を止めた。これに何の意味もないと分かっている。こんな事を今思っても、彼が傍にいてくれるわけでもなく、苦しくなるばかりだ。  諦めて瞳を閉じる。けれどこの日、なかなか眠りは訪れなかった。 ============================== 【ユリエル】  ユリエルもまた、眠れぬ夜を過ごしていた。レヴィンに起こされ、すっかり眠れる気がしなくなっていた。  仕方なく窓際に移動し、空を見る。けれどそこに、月はなかった。 「今夜は、月が出ていませんね」  彼は今、どこにいるだろう。同じように、空を眺めているだろうか。 「エトワール」  貴方の知らない所で、貴方の知らない私はどんどんこの手を血に染める。敵も味方もなく。  この穢れを、どう洗えばいい? どんなに飾っても、偽っても、どんどん貴方に似合わぬ者になっていく。  ユリエルは考えるのを止めて、布団の中に潜り込んだ。眠りなど訪れないだろうが、それでも起きている意味がなかった。ならば、少しでも体を休める事にしたのだ。

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