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第145話 仲間であり、友であり

【ユリエル】  キエフ港へと寄港してすぐ、ユリエルは借りた屋敷にヴィトを運び込んだ。湯船に湯をため、体を流す。石鹸を使って綺麗に体を洗い髪を洗えば、元の艶が戻ってくる。  それでもヴィトの心は戻らない。四つん這いにさせ、傷ついただろう秘部を見れば赤く熟れ、酷く艶めかしいようだった。こんなにされるほどに犯された。それがあまりに胸に痛い。  そっとその孔へと指を這わせ、中に入れれば簡単に飲み込んでいく。そして中はやはり、男達が放ったもので汚れたままだった。 「ぃや…」 「ヴィト?」 「いや! いやぁ!」  途端暴れて泣き叫ぶヴィトの姿に、ユリエルは咄嗟に体を押さえた。それでも抵抗が止むわけじゃない。精一杯に抵抗して逃れようとするが、指は後ろへ入ったまま。傷でもつけば大変になる。ユリエルはヴィトの体を抱きとめる。叫ぶヴィトは今にも舌を噛みそうな、そんな勢いがあった。 「!」  口元に腕を差し入れるその腕を、ヴィトは思い切り噛んだ。肉を食い締める痛みは想像以上に痛んだが、声を上げる事はできなかった。傷ついた彼を前に、助けられなかった自分が声を上げる事はできなかった。 「大丈夫ですよ、ヴィト。私です、ユリエルです。もう、貴方を傷つける者はいません。体を綺麗にしますから、それまで少しだけ我慢してください」  後ろを掻き出しながら、何度も出し入れをする。その度にヴィトは叫ぶようにユリエルの腕を噛んでいたが、ユリエルはそのままにさせていた。  やがて指に絡むものがなくなり、ようやく後ろから指を抜き取ったユリエルはヴィトの体を後ろから抱いて湯船へと浸かった。温かな湯に少しだけ香油をたらしている。良い香りが湯気に混じり、心を落ち着けてくれる。  後ろからヴィトの体を抱きしめたまま、肩や胸に湯をすくってかけていく。温まる体が色を取り戻していくのを、ユリエルはジッと見つめた。 「…陛下?」 「ヴィト?」 「…どうして、きたの?」  ゆらゆらと、まだ視点が定まっていないようなヴィトは、だが彼の声で話している。それにユリエルはほっとした。 「大事な仲間を、どうして見捨てられますか?」 「陛下が死んじゃう…きて欲しくない…」 「私は死にませんよ。死神だって逃げていきます」  笑って頭を撫で、体を撫でる。それに、ヴィトは少しくすぐったそうにしていた。  頭を胸元に寄りかからせ、甘えるように鼻を擦り寄せる仕草にユリエルは微笑む。体の全てを抱きしめて、心から詫びた。 「遅くなってすみません」  ヴィトが首を左右に振る。そしてより強く、胸元に頬を擦り寄せる。 「今は何も考えずに休みなさい。フィノーラも、バルカロールの船員達も全員無事ですからね」 「陛下…」 「なんですか?」 「船、沈んだんだ。ごめんなさい、もう力になれない」  辛そうな言葉に、ユリエルは首を横に振る。そして、そっと頬を拭った。 「…海は、好きですか?」 「好き」 「これからも、船に乗っていたいですか?」  戸惑いながらも首をコクンと頷かせる。ユリエルは頷いて、頭を抱き寄せた。 「では、まずは元気にならなければ。温かい場所で眠って、食事を食べて。また私と、お茶もしてくれますか?」 「僕、役立たずになった」 「いいえ、役立たずなんかじゃありません。それに私は役に立つから貴方を側に置いている訳ではありませんよ。貴方は私の仲間で、私の友ですよ」  ほんの少し、子犬のような瞳が見上げる。光を取り戻した瞳は、緩く泣きそうに歪んでいた。  湯船から上げ、丁寧に拭き上げた肌に香油をたらして塗り込んでいく。香と共に肌がほんのりと温かくなるのに、ヴィトは不思議そうな顔をしていた。こうしていると同じくらいの身長なのにヴィトはまるで子供のようで、どこか愛らしくもある。 「陛下、腕」 「ん?」  見ればヴィトが噛みついた部分は血を流している。僅かに肉も見えていて、見た目にとても痛々しかった。それでも湯で傷は洗われている。痛みも今は感じていない。 「ごめんなさい…」  子犬の耳がペタンと下がるような姿にユリエルは笑う。そして、よしよしと頭を撫でた。 「貴方が戻ってきてよかった。辛い思いをさせてすみません。お腹は空いていますか?」 「あの…」  ぐぅぅぅぅっ  大きく鳴ったお腹は今食いっぱぐれてはならないと言っているようだ。思わず笑い、ユリエルは綺麗なパジャマをヴィトに着せかけて頭を撫でた。 「粥を持たせます。食べてない所に重たいものを入れたら調子を崩しますから、少し軽めにね。それが終わったら眠ってくださいね」 「うん。陛下、怪我の手当してね」 「分かっていますよ」  頭を撫でて部屋に連れて行き、大人しく座ったヴィトを確認してから部屋を出る。食堂へと向かうと、アルクースとツェザーリが何やらしている。 「何をしているのですか?」 「薬草の交渉や。こん人、めっちゃ薬学詳しくて凄いねん」 「売れって言われてるんだけど、売れるほどの量は取れないって言ってるんだ。なのに……陛下」  ユリエルを見た途端に、アルクースが視線を厳しくした。そして、ヴィトに噛ませた腕の傷を見て目を吊り上げた。 「なにしたの!」 「いえ、ヴィトを洗って…」 「洗っただけで肉が抉れるような噛み跡残らないでしょ!」  「座って!」と言われ大人しく座る。アルクースは薬箱を持って側に座り、傷を丁寧に治療していく。それを側で見ているツェザーリも「うわぁ…」と言って腕をさすった。 「それ、あの坊やに噛まれたんか?」 「中を洗う時に酷く暴れて、舌を噛みそうでしたので噛ませたんです」 「無茶しないの! もう、ばい菌でも入って腕が腐ったらどうするの」  文句を言いながらもロアールばりの治療をするアルクースに礼を言いながら、ユリエルは笑う。ずっと穏やかに。 「ヴィト、戻った?」 「戻りましたよ。粥をお願いしてきたんです。出来たら運びます」 「俺がやるから陛下は座ってて。動きすぎだし」  そのうちに厨房から声がかかり、バルカロールのコック長が温かな湯気を出す粥を出してくる。アルクースがそれを持って部屋から出て行った。 「それにしても、あの坊やもタフやわ。戻ってきよったか」 「荒療治でしたがね」 「そのようや。して、なんか言ってはりました?」 「船の事を気にしています。ツェザーリ、お願いできますね?」  問えば、ツェザーリはとても複雑な顔をしながらも頷いた。  ここに来る間に、ユリエルはツェザーリと交渉した。奴らから奪った船を、沈められたヴィトの船として明け渡すための改装を頼んだのだ。その為に乗り込んで、船体に傷がないようにしたのだから。 「武器やなんかは最新や。あのまんまでえぇ。甲板も一部張り替えるだけでえぇ。せやけど拷問部屋がなぁ。すんごく綺麗にせな」 「頼みます」 「まぁ、やりますわ。まずはわいの実力、ようみたってや」  自信を見せるツァザーリの言葉に、ユリエルも満足に頷いた。

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