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第177話 二王の戴冠

【ユリエル】  アンブローズによる暗殺未遂事件から、半年。ラインバールの地はお祭りのような騒ぎになっている。  ラインバール、ルルエ側の砦で今、厳かに戴冠の儀式が行われている。  二人の王は並んで、新たな国の樹立を宣言し、この日の為に作られた揃いの王冠を教皇ハウエルから受け取った。  そうしてバルコニーから人々の前に出れば、割れんばかりの歓声と祝福の花が舞っていた。 「今日は歴史における記念すべき日となる。その日を、こうして多くの民と共に迎える事が出来たことは、実に喜ばしい事だ」  ルーカスが前に立ち、堂々と声を張り上げるのを隣で聞くと、安堵してしまう。平気だと分かっていても、どこかでまだ不安があったのだろう。 「今日、この日をもって二国は一国となり、大陸から名を取って『エル・ターニア』と改める。そしてこの地に新たな王都を築き、末永い繁栄を誓う」  ユリエルの声にも、人々の歓声が沸く。既に新王都の建設は始まっている。クレメンスが嬉々として王城や街の設計図を持ち込んでくるのだ。よほど建築がやりたかったとみえる。  ユリエルとルーカスの背後には、これまで支えてくれた臣がズラリと並んでくれている。そして彼らはこれからも支えてくれる大切な人々だ。  半年前、二人は国に触れを出した。国家統一を宣言し、ラインバールへと遷都する事。  それは人々に衝撃を持って受け止められた。戸惑う者もいただろうが、自分たちの生活はこれといって変わらない。そのことに安堵していた。  同時に忙しくなったのは国家基盤の方だった。軍部の縮小が行われ、望む者を公共事業の労働力として雇い入れた。他の仕事をしたい者も、できるだけ希望に添うようにした。  オールドブラッドの老人達は政治から身を引き、次の楽しみを見いだした。若者の教育だ。  現在ルルエの王都には、大きな学院が建とうとしている。王都から外れ、勉学の都となる予定なのだ。  逆にタニス王都は芸術の都となり、今でも様々な芸術家が集まりつつある。こうしてあちこちで動きがあり、後々軍を離れる予定の者達も今が稼ぎ時と汗している。  両国間での争いもなくなったことで、無駄に軍備がかからなくなり、その分を新王都建設や他の街の整備に当てられる。これも喜ばしい。  治水が進んだタニスは農業の生産量を大幅に伸ばし、品種改良された植物の苗などを得たルルエも大幅に農業生産率が上がった。この数年、豊作が続いている。そのおかげで他大陸との交易も順調にゆき、経済も潤ってきている。何より飢えない事が、人々の心を大らかにしているだろう。  人々の前から引っ込んだユリエルとルーカスは、王冠を外し大仰なマントを脱ぐと、そのまま再び神殿へと入った。だが今度は戴冠ではない。赤い絨毯を敷いた道を、二人はしっかりと手を取って歩き出した。  今日は両王の、結婚の儀式も執り行われるのだ。  堂々としていた戴冠の時とは違い、しずしずと進む二人はそのまま、ハウエルの待つ祭壇の前へと向かい、前を向いた。その二人を見て、ハウエルは静かに頷いた。 「これより、ユリエル・ハーディング陛下と、ルーカス・ラドクリフ陛下の人前式を執り行います。ご列席の皆様、ご着席ください」  柔らかな声でハウエルが伝え、この国を支え続けてくれた臣達が腰を下ろす。  ユリエルの側には、シリル、レヴィン、グリフィス、クレメンス。アルクースなど目に涙を浮かべ、隣のファルハードが鼻を赤くしている。  穏やかにヴィトとフィノーラが微笑み、何故か隣にツェザーリが座っている。ロアール兄弟や、新代のオールドブラッド達も穏やかに微笑んでいる。  ルーカスの側には、ヨハン、ガレス、クラリス、アルナンといった知った顔から、国政を支えてきた宰相や大臣達、そして元聖教騎士団のクララスもそこにはいた。  そして端のほうに、バートラムの妻とその息子もいた。  支えてくれた人々、ほんの少しだけ触れる事の出来た人々、そうした人々の前で、今日この日、二人は夫婦としても新しい一歩を踏み出す。  両国において、同性が夫婦と認められる法はない。だが、二人の関係を臣に知らしめる事と、二人の気持ちを改めて確認する必要はあるだろうと、家臣達が進言してきた。  これには二人の方が驚いたのだ。 「人前式ですので、形式張った事はいたしません。誓いの言葉を、お願いいたします」  実に穏やかにハウエルに促され、まずはルーカスがユリエルへと向き直る。本当に真っ直ぐに、穏やかに見つめる金の瞳に吸い込まれてしまいそうだ。 「私、ルーカス・ラドクリフは、ユリエル・ハーディングを生涯愛すると誓う。この身が朽ちたとしても、この魂が存在する限り、彼を愛し、彼の側にあると誓おう」  ドキッと、心臓が強く鳴り響く。  愛しい人から向けられる愛の言葉を正面から受けるのは、何度経験しても慣れてくれない。  早鐘を打つ胸を落ち着けるように一つ息を吐き出し、ユリエルはしっかりと、深いジェードの瞳に彼を映した。 「私、ユリエル・ハーディングは、ルーカス・ラドクリフを生涯愛すると誓います。例えどれほどの困難があろうとも、この身が先に朽ちようとも、最愛を誓い魂があり続ける限り、彼を守り側にあることを誓います」  互いの手を取り、頷きあう。  最初から最後まで、持ち続けた気持ち。どれだけの血を浴びようとも、穢れを纏おうとも、人としての愛の全ては彼の為に。そして互いの大切さを思い知ってからはもう一つ。彼なくして自分はなく、自分なくして彼はない。だからこそ、互いを慈しんで行こうと誓った。 「真実の愛と誓いの言葉に賛同し、二人の婚姻を認める方は起立し、惜しみない拍手と祝福をお願いいたします」  ハウエルの言葉に、参列した人々は皆が立ち上がり、惜しみない拍手を送ってくれる。  シリルなど涙ぐみ、隣のレヴィンが笑ってその涙を拭っている。グリフィスが、ロアールが、まるで兄のように穏やかな見守る視線を向けている。クレメンスが苦笑しながらも頷いている。アルクースとファルハードは感動に男泣きだ。それを、ヴィトとフィノーラは笑っていた。  温かな気持ちを貰える。支えてくれた人々から押し上げられるように、ここにいる。とんでもない裏切りをしていたというのに、認めて、受け入れて、協力してくれた素晴らしき仲間だ。  隣で、ルーカスも静かに全てを見回している。同じ事を思っているのだろうことは、その表情から分かる。僅かに目尻に光るものがあり、強く手を握り、誇らしげに微笑んでいる。 「賛成多数により、ここに居ます全ての人を証人として、お二人を夫婦と認めます。困難な事は、これから多々あるでしょう。ですが決して心を離さず、お二人の力で乗り切ってください。互いを慈しみ、苦しむ時は寄り添い、悲しみを拭い合い、喜びを分かち合って下さい」 「あぁ、勿論だ」 「例えこの先何があろうとも」  ハウエルの慈悲深い笑みを前に、ユリエルとルーカスは見つめ合い、微笑んだ。  そんな二人の前に、ピローに乗った二つの指輪が差し出される。新たな国家の紋章を刻み込んだシンプルな指輪の一つをルーカスが手に取り、ユリエルの左手薬指にはめていく。スルスルとはまり、ピッタリと収まった指輪を見つめ、感慨深い気持ちになってユリエルはルーカスを見た。  ユリエルもまた、指輪を手にした。ルーカスの大きな手を取り、その左手薬指に同じように指輪をはめる。夫婦となる証。同じ物を身につける独占欲。ドキドキと、心臓が煩い。  指輪が互いの指にはまると、再び拍手が湧き上がった。その前で互いに見つめ合った二人は、どちらともなく一歩前に出て、抱き合い、深くキスをした。ルーカスの首に腕を回し、甘えるようにキスをしたユリエルの目には僅かに涙が飾られた。  あまりに長い出会いからの歩みは、ここにようやく一つの区切りを迎えたのだ。  その夜、祭りの賑わいは砦の外でずっとしていた。だが二人は祝いの宴に顔を出し、夜にもう一度人々の前に姿を現した後は寝室へと引きこもった。  今日という日はこの部屋の周囲に人はなく、静かな時が流れている。 「思えば堂々とこうして寄り添うのは、初めてだな」 「そうですね。いつも忍んでこっそりと会っていましたから」 「それはそれで、ではあるが」  ソファーに腰を下ろしたまま、シャンパンの泡を見つめつつ隣り合う熱を感じ、ユリエルは微笑む。隣の人が何を思ったか、伝わった気がした。 「なんですか? こっそりと会う方が欲情するとでも?」 「適度な秘密は燃え上がるだろ?」 「大きすぎる秘密でしたよ」  言って、互いに声を出して笑い、シャンパンを飲み込む。軽やかな刺激が心地よい。  そうして互いに見つめ合い、ルーカスは甘やかすように額に唇を落とし、ユリエルはその首筋に唇を寄せた。 「一応は、初夜となるんだろうな」 「えぇ」  夫婦となった。それを意識する言葉に正直に体は熱を帯びる。だが、激しい興奮ではない。もっと穏やかに、強い鼓動が確かに鳴る。  衣擦れの音と、グラスを置く音。ユリエルもそれに従いグラスを置き、正面から両手で彼に触れた。 「貰って、頂けますか?」 「勿論、全てをもらい受ける。受けてくれるか?」 「貴方が与えてくれるものなら、どんなものでも余すことなく」  確かめるように口にして、いつもよりゆっくりと唇が触れる。甘く触れる熱はいつもよりも熱い。ゆっくりとくすぐられ、受け入れる舌はいつもより熱い。息苦しくなるほどに求められ、根元から吸われ、甘い吐息が鼻にかかった。  服の前に縋りながら、ユリエルも求め追いすがるように舌を絡めた。飲みきれずに落ちる滴が、口の端からこぼれていく。 「はぁ、ぁ…」  熱を孕む瞳が、名残惜しく離れた唇を見つめる。赤く色づいた唇は、未だ求めるように薄く開いたままだ。そこにもう一度、啄むようにキスが落ちて体が浮いた。  成人男性程度には重さのある体を、ルーカスは苦もなく横抱きにする。首に腕を回し、されるままに抱きついて運ばれる。大きなキングサイズのベッドが軋み、見上げる視界は直ぐにルーカスだけになった。 「綺麗だ、ユリエル」 「貴方もですよ」 「未だに触れる瞬間に、戸惑いがある。美しい者に触れ、醜い欲でその身を穢し貶める。そんな背徳感すらある」 「馬鹿ですね、まったく。神や悪魔ではないただの人間ですよ」 「それでも、俺の中では君の印象は強烈だ。月よりの使者。君は未だに、あの時の清廉さを失っていない」  言われ、頬に触れた熱い手が撫で、愛しく唇を落とされる。甘やかされ、愛おしまれ、この体は素直に開いていく。快楽によってばかりではないだろう。与えられる感情が、頑なな心を開かせ全てを解放していくのだ。 「私も覚えていますよ、貴方は夜のような人。静かで穏やかな、夜の使者」  漆黒の髪を、纏う黒を、こんなにも似合う人がいるのかと思った。静かに佇むその姿に多少の畏怖と、それを覆い隠す穏やかで優しい空気を感じ、寄り添いたくなった。 「貴方は夜。月を抱く夜です」 「ならば、似合いか」 「勿論。月は常に夜の中にあり、優しく穏やかに抱かれているのです。それこそが、至上の幸福なのですから」  抱きついて、ユリエルから唇に触れた。求める気持ちを託して触れた舌を、柔らかく包んでくれる。体が熱を孕む。心臓が求めるようにドキドキと音を立てる。  互いの服を剥ぎ取るように脱がせ、逞しい腕に、背に触れた。しっかりとした筋肉のついた体は、あの頃と何も変わらない。胸に一つ、薄く傷が残った事だけが唯一の違いか。  ユリエルはそこに唇を寄せた。色の違うその部分を吸えば、ヒクリとルーカスの体が反応する。 「くすぐったい?」 「あぁ。それに、妙に疼く」 「では、もう少ししましょうか?」 「こら、悪戯をするな。今日はゆっくり、穏やかに抱きたいと思っているんだ。確かめるように、一つずつ」  熱い手が、胸元を探る。大きく大雑把にグリッと押し込まれる胸元の飾りは、この程度の刺激ではまだ反応が弱い。だが、熱を感じる手の感触は間違いなく鼓動を早める。求める気持ちが、興奮を呼ぶ。  なぞるように唇が首筋を、鎖骨の上を滑り、手は体を確かめるように触れる。唇が胸へ触れるとそれだけで、期待に息が漏れる。それを聞かれ、くつくつと笑われる事が実に恥ずかしい。 「そう期待されると」 「いいじゃないですか」 「男冥利につきるな」  そう言いながら、もどかしく手が臍の辺りを撫でていく。モゾモゾと、少しくすぐったい感じがして身を捩ってしまう。 「くすぐったいか?」 「分かってるんじゃないですか」 「すまない。ついつい、初めて体を重ねた日を思いだしてな」  そう言いながらチュッと胸の突起にキスをするのだ。不意打ちで、甘い声が漏れてしまう。  初めて体を重ねたマリアンヌの夜も、こんな風に確かめるように触れてきた。互いに、感情を伴う営みは初めてだった。情と熱を持って触れたのは、初めてだった。 「はぁ…」  熱い手が、足の付け根の内側を撫でる。皮膚の薄い、感じやすい場所に触れられて、自然と足が持ち上がる。こんな場所が気持ちいいなんてことを知らしめたのも、この人だ。どこが心地よく、どこが感じるのか、そんな事を一つずつユリエルに教えたのは、この熱い手だ。 「はっ、んぅ!」  唇が啄むように胸の突起を愛で、舌が促すように縁をなぞる。赤いそこが更に色を増して尖る様を見せつけるように、ルーカスはゆっくりと全ての行為をユリエルへと知らしめる。 「なんでそんな、羞恥を煽るように…」 「嫌か?」 「嫌ではありませんが…恥ずかしい…」 「そうして恥ずかしそうにするのを見るのが、好きだからだよ」  顔を赤くして視線を逸らせば、楽しそうに笑った人がキスをくれる。拗ねるなと言われたようで、余計に睨みあげてしまった。勿論、照れ隠しだが。  唇が、手が、舌が、促すように体に触れる。赤く尖り痛いくらいに感じる胸は唾液で濡れて僅かに照り、指が蕾を寛げ中を探る。香油を纏わせた指が挿入を楽にし、内壁を擦り叩く。されるがままに暴かれていく体は、甘く強く痺れ疼いて声を漏らした。 「指一本で、随分絡みつく。いつも以上に感じているのは、特別な日だからか」 「そういう貴方だって、熱くなっているじゃありませんか」  手が、時折触れる昂ぶりが、熱く滾っているのを知っている。ぬるりと内股を滑るほどに濡れた剛直は、鞘が欲しいと言わんばかりだ。  彼の昂ぶりに触れようと手を伸ばしたが、それはルーカス本人に止められた。いつもはさせてくれる愛撫を断られ頼りなく見上げれば、困った笑みが見下ろしてくる。 「今日は、前はいい。後ろで全て受け止めてくれないか?」 「構いませんが…」  だがそうなると、少しだけ困る事もある。ルーカスは一度達した程度ではその熱を収めてくれない。二度は間違いない。そうなるとユリエルはいつも、気を飛ばしてしまいそうなほどに感じてしまう。女性と同じく中で感じる快楽に支配されて、頭の中が白むのだ。 「嫌そうな顔をするな」 「自分が分からなくなるほどの快楽は、後が色々と恥ずかしいんですよ」 「いいじゃないか、全て晒してしまっても。隠す事はない。俺と君との営みに、今更なにか恥じる事でもあるのか?」  言われてしまえば「ない」としか言いようがない。本当に困った人だ。本当に、愛しい人だ。 「後でからかわないで下さいよ?」 「たとえば?」 「あの時の君は情熱的だったとか、淫らで美しかったとか。お願いですから、忘れてください」 「あぁ」  言いながら、愉快そうに笑うルーカスは楽しそうだ。この人はいつも恥ずかしがるユリエルの耳元で、そのような事を言う。顔を真っ赤にするのを楽しんでいる。 「性格悪いですよ」 「悪い。だが、ついついな。完璧な君が恥ずかしげに顔を赤らめるのを見ると、少しだけ意地悪をしてくなってしまう」  甘い声がそんな事を言ってくる。これに勝てたためしがない。惚れた弱みだ、こんな部分まで許すのだから。  耳殻に、頬に、口の端に、啄むようにキスが降る。喉に、胸に、降っていく。グリッと押し込まれる指の圧迫で、いつのまにか内を犯す強さが増した事を知った。ドクドクと加速する血の巡りが、蕩けさせていく。  三本になった指がバラバラに内壁を叩き、硬い部分を押し上げる。高い声が響き、重く痺れて引けてしまう。その腰を押さえられ、なおも執拗に解されて、後ろは蕾を綻ばせ熱い欲望を欲するようにひくりと蠢き口を開けた。 「挿れるぞ」  低く耳に響く声が脳を犯す。蕩けた体が知っているように、熱く滾る楔を受け入れた。  入念に解されても、今日は引き裂くように痛む。それほど、ルーカスも滾らせていたのだ。内を焼くように熱いそれが、体の中を埋めていく。あられもない声を響かせ、彼の体を抱きしめて、ユリエルはゆっくりと全てを飲み込んだ。  身の内にルーカスのものを全て受け入れた時には、双方共に汗だくだった。精悍な瞳が快楽に歪むのは、男の色香を感じてたまらない。たったそれだけで、ルーカスの昂ぶりを僅かに締め上げる。濡れた吐息が、こぼれ落ちていく。 「あまり締めないでくれ。痛むだろ?」 「んっ、でも気持ちいい…」  隙間なく一つに。そのように思えば痛みなど忘れる。頬に触れ、汗を払い、確かめるようにルーカスの体に触れていく。  それに応えるように、ルーカスは僅かに腰を引き、奥を突いた。 「はぁ! あぁあ!」  身を貫かれ、弱い部分を抉られて、たまらない悦びがわき上がって背が仰け反る。ねっとりと絡む肉が、離さないと締め上げる。吸い付くように蠢く内に、ルーカスも低く呻いて眉根を寄せた。 「これは…持って行かれそうだ…」 「はあぁ!」 「くっ……すまない、辛かったら止めてくれっ」  深く足を開かれて、ガツンと拳を入れるように、強く求められ最奥が蠢き、ユリエルは嬌声を上げながら一気に世界が白むような快楽に流された。揺さぶられ、乱暴に暴かれていくのに求めている。  折り重なり、ルーカスに唇を塞がれる。こんなに熱く濡れた舌を受け入れるのは久しぶりだ。息が出来ないほどに求められるのは、久しぶりだ。  腰が揺れ、ねだるようにルーカスの逞しい腹筋に己を擦り合わせ、息も継げないキスに溺れ、ユリエルは全ての熱を吐き出した。あまりの心地よさに意識が揺らぐ。鼓動の音が耳の直ぐ横で聞こえているような気がする。  それでもまだ、ルーカスは果てていない。締め上げる中を更に数度突き崩し、深い部分に熱い欲望を放った彼も、珍しく眉根に深く皺を作り耐えるように震えている。中に感じる滴りは、数度弾けてもまだ足りないのか、腰を打ち付け吐き出していく。こんな事は、とても珍しい。 「ル…カス?」 「あっ…っ!」  低く艶のある声が溢れ出て、その後はどっと胸へと倒れてくる。その彼を受け止めたユリエルの方が心配になった。 「あの…」 「はっ、はははっ。食われるかと思うよ、まったく」 「え?」  低く弱く、とんでもない事を言う人を抱きしめて、ユリエルは真っ赤になった。  未だ繋がったまま、互いの体を抱きしめて同じを時を過ごしている。中にある彼はまだ、完全には萎えていないのだろう。重なる鼓動に任せるうち、ユリエルは心地よい気分に瞼が重くなった。 「疲れたか?」  体を起こしたルーカスが顔を覗き込み、額にキスをする。甘やかす時にする、彼の癖だ。 「今日はもう、眠ろう」 「でも…」  繋がったままのそこが、完全には萎えていないと伝えてくる。  だが、ルーカスは穏やかに笑った。 「会えない夜はもうない。次はいつかなどと、思う事はもうない。毎夜同じ布団で眠り、触れようと思えばいつでも触れられる。だから、平気だ」  言われ、その幸福に再び笑みを浮かべた。そう、もう離れる事はない。毎夜互いの温もりを感じて眠れる。  隣り合って眠る、その手をルーカスが握り、ユリエルも握り返した。同じ愛を誓った指輪のはまる、その手を。

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