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第2話 情を交わして

 驚く程ゆったりとした時間が過ぎた。旅人は話し好きで、面白い話しを沢山僧にしてくれたのだ。  夜も更けた頃になって、ようやく雨は上がった。だがこんな時間にここから出て旅に戻る気にはなれない。服も乾いていないし、何より疲れた。 「俺は隣町までいく。そこから船に乗るんだ」 「船に?」  旅人の話に、僧はすっかり警戒心を解いていた。元々素直すぎるくらいの性格だ。先程の恐怖も今は忘れている。  旅人もまた穏やかな表情をしている。本来はそう物騒な人物でもないのだろう。 「野暮用から帰る途中だったんだ。あと少しというところで降られてな。一晩も雨に打たれれば体が冷えて体力を消耗するり、何よりこの天候で峠を越えるのは危険だ。困っていた所に、この寺があった」 「私も似たようなものです。足も疲れてしまって、雨も降り出して困っておりました」 「やっぱり、旅にむいてないんだろう」 「放っておいてください。止めるつもりはありません」  強情な声で僧がいえば、旅人はおかしそうに笑う。この時間がとても心地よかった。 「さて、そろそろ寝るか。服は……駄目だな。まだ濡れてやがる」 「私もです。外に服もありませんし、暖も取れないのでは体が冷えてしまいますね」  裸で眠るのは危険かもしれない。だが濡れた服など着れば余計に危険だ。  僧はお堂の中をくまなく探したが、寒さを凌ぐような物は見つけられなかった。  その時不意に、背後から旅人が僧を抱きすくめてくる。温かな腕が裸の体に染みていく。 「なにを!」 「人肌ってのが、あったと思ってな」  抱きしめる腕にますます力を込める旅人に、僧は心臓が早鐘を打つのを感じていた。 「冗談を」 「本気だ。くっついて眠れば互いに乗り切れる」 「そうだとしても!」 「命を繋ぐためさ。自分も俺も助ける事と思えば、なんてことはないだろ?」  旅人の言葉に反論できない。体を冷やして体力を奪われれば、旅を続けるどころの話しではなくなってしまうかもしれない。  実際、濡れて冷え切った僧の体は未だに震えている。お堂は古く隙間風が入る。そうした冷気が、細い僧の体を一層冷やした。 「あんた、俺より冷え切ってるだろ」 「そんな事は……」 「じゃあ、震えているのは何故だ?」  言い訳ができない。  僧は抵抗をやめて、旅人の側に寄った。  いたの床はひんやりと冷たいが、旅人と触れて眠るのは心地よい。  しばらくは警戒していて眠る事が出来なかったが、徐々に疲れが勝ってまどろみ始めていた。  思えば人の温もりなどいつぶりか。耳に届く心音が心地よく眠りへと落としていく。  抱きしめる腕は逞しく、体臭も体つきも寺の僧とは違った。  僅かに体が熱くなる。始めて旅人を見た時から、妙に惹きつけられていた。均整の取れた綺麗な体に、端正な顔立ち。なのに笑ったときは、何処か幼く見えた。  駄目だ、考えては目が覚めてしまう。  僧は強く瞳を閉じて眠ろうと努力した。だが不意に、旅人の方が動きをみせた。 「!」  前に回っていた手が徐に、僧の滑らかな肌を撫でた。  肌がぞわりと粟立ってしまう。一気に心臓が早鐘を打つ。そして必死に、声を殺した。  旅人の手はまるで弄ぶように僧の体を撫で回す。胸を、鎖骨を、脇腹を、臍の辺りを。まるで気持ち良い場所を探しているように、節くれ立つ手で触れるのだ。  僧は必死だ。一つでも声が出れば止められなくなる。そうなればきっと、戯れな触れ合いでは済まなくなる。本気になってしまう。  もしも旅人に本気で迫られたら、逃げられない。腕力の問題ではなく、溺れてしまいそうだ。  その間にも脇腹を撫でていた手が臍の周りを撫でて、ゆっくりと下肢へと伸びていく。 「っ!」  ふんどしの上から撫でられただけだ。だが、確実に体に熱が籠もった。  声を殺しきれなくて、僧は自らの腕を噛む。そうでもしなければみっともなく崩れ落ちてしまう。  僧が拒まないのをいい事に、旅人は更に大胆に動く。  ふんどしの上から撫でていた手を、中へと差し込んできたのだ。  僧はすっかり熱くなっていた。  体の芯はすっかり蕩けている。もう、旅人の与える僅かな刺激にすら敏感に反応してしまっている。  所詮は稚児だ。十に満たない時分から上の僧の相手をさせられ、それが当たり前だと思ってきた。物心がついて、これは異常な事なのだと気付いても、止めてもらえはしなかった。  寺を出されたら一人で生きていく力などない。それが枷となって、この年までずるずると。  旅に出た理由の大半は、この関係を断ち切りたかったからだ。  そう、旅人が指摘した通りだ。  旅人に刺激され、蕩けて溢れた滴がふんどしを濡らしている。旅人はそれを指に絡めると、僧の尻へと埋めた。  節のある太い旅人の指が中へを侵入するのを感じて、僧はもう声を殺すことができなかった。  そして思い知った。  待ち望んでいたのだと。  自分の体が男を欲していたのだと思い知らされる。そうでなければこんなに簡単に旅人を受け入れていない。  欲した部分に指が触れて、悲鳴のような声を上げた。一気に突き上げる様な刺激は、心地よい余韻を残して痺れさせる。こうなればもう、留める事はできない。  不安なのは、旅人の顔が見えない事。旅人は後ろから僧を抱きしめている。  一体、どんな顔をしているのだろう。呆れているのか。それとも自分と同じように、色に溺れているのか。  確かに感じられる事は、抱きしめる旅人の体も僧と同じように熱く反応していること。 「力、抜いておけ」  不意に耳に吹き込まれた声に僧が従うよりも前に、男の逞しい逸物が僧の体をこじ開けた。  悲鳴を上げながらも飲み込む。慣らされすぎた体は順応の仕方を知っている。  深く旅人を受け入れた体は、もう与えられる悦び以外は感じていない。  小さなお堂の中に一晩中、僧の艶やかな声が響いていた。

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