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「すみません。余計な詮索しました」  秋良の表情が再び曇っていた。持っているペットボトルが微かに震えている。ピリッとした緊張感が二人の間に漂い、脩は申し訳無さが胸にこみ上げてくる。何も知らないのだから、気になってしまっても無理はない。それに秋良は、心配して聞いてきただけなのだろう。  「ごめん。少し、嫌なことがあって……別に田端に関することじゃないからさ。気にしないで」  悩みの原因である本人を目の前に、脩は無理やり笑顔を作り声音を和らげる。  いくら聞かれたくなかったからといえ、あの態度はなんとも大人げなかった。社会人歴が長くなるにつれて、詮索されることに慣れてきてはいた。取引先に聞かれた際には、当たり障りなく返すことも出来る。でも、秋良になると話が違ってくる。こんな場所で親戚筋だという関係が明らかになって、母にその事がバレでもしたら会社を辞めさせられてしまうだろう。 「本当にごめん」  だからといって、秋良は今後付き合っていかなければならない後輩であることには変わりない。とにかくこういう時は謝り倒すのが一番だと、脩は謝罪を重ねた。こういう時、真壁ならどうするだろうか……と、いうよりも真壁に悩みなどなさそうだなと思い直す。 「いえ、そんな……こちらこそすみませんでした」  秋良の表情が少し和らぎ、脩はホッと胸を撫で下ろす。当面の間は、秋良の指導をしていかなければならないのに、気まずさを残したままだとやりずらくなってしまうだろう。できるだけ、穏便な関係を築いて、早く独り立ちしてもらわなければ困るのだ。 「じゃあ、僕は帰るから。また明日」  秋良の背後の白いモヤにちらりと視線を向けてから、少し強張った口調でお疲れ様と告げ背を向けた。 「はい。お疲れ様でした」   秋良を一人残し、至って平然を装った足取りで脩は公園を後にする。  公園から離れた場所で、緊張の糸が切れたのか膝が微かに震えだす。不安と喪失感が今になって、足元から這い上がってきた。  あの公園には入社してからほぼ毎日のように、人がいない時間を見計らっては通いつめていたのだ。  まさか、渦中の人物である秋良に邪魔されるとは思ってもみなかった。当面はまっすぐ家に帰るしかなさそうだ。  脩は苦い気持ちを抱え、いつもまにか着いていた自宅玄関の扉を開けた。

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