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翌日以降、秋良が想像以上に仕事のできる人間だと思い知らされた。それは脩が引け目を感じてしまうほどだった。
教えたことはしっかりこなしていくし、今時珍しい自主性も持ち合わせている。他の社員や取引先とも上手くやっていて、飲み会の席では引っ張りだこのようだった。
数少ない女性社員も草刈派と田端派という、小さな派閥が起こっているらしい。
秋良が入社してから三ヶ月近くが経ち、気づけばすでに初夏の暑さが堪えはじめる時期へと、変貌を遂げていた。
冷房の効いた室内で、脩はパソコンとにらめっこしていると、いつものように目の前から声が聞こえてくる。
「世良先輩っ! このままだと田端くんに追い抜かれちゃいますよ」
秋良が来て以来、なぜか先輩呼びになった草刈が、茶化したように頬を緩ませ顔を出す。
「お前もな」
「俺は関係ないもん」
「ふーん。田端の方が派閥の勢力が増していてもか?」
秋良の方が愛想の良い弟キャラということで、草刈派が減ってきている事を脩は風の噂で知っていた。草刈は少しプレイボーイ的な雰囲気がある。一方で秋良は誠実そうで、甘え上手なので可愛がられていた。
「あっ! 電話しなきゃ」
草刈は逃げるようにパソコンの影に頭を引っ込め、わざとらしく受話器を上げている。
脩は呆れたように溜息を吐き出し、ちらりと隣の席に視線を向ける。噂の本人である秋良は、島崎に呼ばれて席を外していた。
先輩としては、早々に成長してくれるのは有り難い。でも、追い抜かれてしまっては、先輩としての威厳がなくなってしまうだろう。
なんとも複雑な心境を抱えたまま、パソコンで顧客のリストアップをしていると「世良! ちょっと来い」と少し離れた所から名前を呼ばれた。島崎の少し強張った声音に、驚いて脩は顔を上げる。
いつもの眠たげな表情は消え去り、硬い表情でどこか困り果てているようでもあった。
「……はい」
脩は作業の手を止め、訝しげな表情のまま島崎に連れそう。草刈もこちらに視線を向け、受話器片手に呆気にとられている。
部屋から出て廊下を少し進むと、島崎が足を止め脩に振り返った。
「田端なんだが……」
島崎が眉根を寄せ、少し言い出しにくそうに言葉を切った。こんな狼狽えている島崎を、脩は見たことがない。それに加えて秋良の名前が出たことで、脩の心臓が飛び跳ねてしまう。
「な、なにかしたんですか?」
「いや……まぁ……なんというか」
珍しく歯切れの悪い島崎に、脩はより一層不安感に苛まれていく。
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