16 / 106

15

 出張当日。あいにくの雨模様だった。秋良を連れ脩は社用車を利用して出張先へと向かう。  朝一で会社を出発する際、島崎はいつも通りの眠たげな顔で「気をつけてな」とわざわざ見送りまでしてくれた。  予定は二泊三日で、ある意味秋良と二人っきりになってしまう。本当だったら一泊二日で済むはずが、島崎がこっそりと「向こうで少し羽伸ばせ」とありがた迷惑なはからいをしてきた。追い打ちをかけるように、ホテルがツインだと聞かされ脩は少し憂鬱な気分になる。  秋良が嫌だというわけではない。白いモヤが気になってしまうのだ。親や親戚はそういうもんだで済ませてこれたが、秋良の場合はうかつに聞けないので分からないままだった。    運転は脩が買って出た。秋良は恐縮していたが、何かあっても自分が責任を取れるようにしておきたかった。  順調に車を走らせ、高速に乗る。他人を乗せていることもあり、脩はいつも以上に神経を使っていた。 「運転させてしまって、すみません」  秋良の少し困ったような声音が、隣から聞こえてく る。  あの日以来、秋良は通常通りに業務を的確にこなし、相変わらず人気ぶりも上々なようだった。ミスした様子がないから分からないが、今のところは精神状態は安定しているようだ。 「いや、大丈夫だから。逆に、長距離走らせて事故られても困る」 「俺、そんなに運転下手じゃないですよ」  秋良が運転する車に乗った事があるが、確かに上手かった。スムーズなハンドルさばきに、ブレーキをかけた際の不快感も少ない。 「歴が違うから。自分で運転して事故る方がまだマシだ」 「事故る前提なんですか。でも、先輩とだったら‥‥‥」  秋良は急に囁くように声を落としてしまう。 「えっ?」  窓を叩きつける雨音に掻き消され、上手く聞き取ることが出来ない。 「いえ、なんでもないです」  ちらりと横目で秋良を見ると、外の薄暗い景色とは対象的に、穏やかな表情で窓の外を見つめていた。

ともだちにシェアしよう!