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 一度パーキングで休憩を取ったのち、一時間ほど車を走らせる。やっと、高速を降りると周囲は緑の山々に囲まれていた。まるで地元のような雰囲気に、脩は陰鬱な気分に苛まれる。 「顔色悪いですけど、大丈夫ですか?」 「……大丈夫。もうすぐ着くから」  顔に出ていたのだろうか、秋良が不安げな様子で問いかけてくる。余計な詮索されないように、脩は無理やり表情を和らげた。 「そういえば、先輩って二十五歳には見えないぐらい落ち着いてますよね」 「二十代半ばなんだから、逆に落ち着いていないほうがおかしいだろ……田端は確か新卒でうちの会社に来たんだよな?」 「はい。なので先輩より二つ下になります」  ふと、草刈が大ニュースだと騒ぎ立て、耳打ちしてきた事を思い出す。確か、秋良は国立大出身とのことだった。駆け出しで、まだ安定性がない企業ではなく、もっと安定性のある大手企業にも入れたはずだ。なんでこんな会社に入ったのか理解できないと、草刈が嘆いていた。 「どうして、この会社に入ったんだ?」  脩は疑問が口をついて出る。こういう時ぐらいしか、本人に聞く機会もないだろう。みんなの前だと、出身大の事で煩わしい思いをさせてしまうかもしれない。 「………」 「ごめん。聞かなかったことにして」  やはり聞かれたくなかったことなのだろう。秋良の表情が少し険しい。一気に車内の空気が、暗澹としたものに変わってしまった。  すぐに目的地に着き、短い沈黙で済んだことに脩はホッと胸を撫で下ろす。今日は挨拶回りと今後の企画提案が目的だった。 「ちゃっちゃと済ませて、宿泊先でゆっくりしよう」  脩は取引先の会社近くのパーキングに車を停めつつ、沈黙を破る。 「はい。運転お疲れ様でした」  いつもどおりの、柔らかい表情に戻った秋良に脩も表情を和らげる。 「課長の粋な計らいで、明日は観光して良いってさ」 「えっ、何でですか?」 「真意は僕にも計りかねるけど。でも、まぁー、たまには良いんじゃないか」  薄々はこないだの件が、関係しているんじゃないかと思ってはいた。でも、今は口にしないほうがいいだろう。ホテルでお酒でも酌み交わせば自然と、向こうから話してくるかもしれない。 「表向きは、得意先周りになってるから……皆には内緒な」 「分かりました。先輩と一緒に観光かぁ……楽しみだな」  口元を綻ばせる秋良に、脩はこれはこれで良かったのかもしれないと思い直す。白いモヤさえ気にしなければ、普通に可愛げのある後輩には違いなかった。

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