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脩は目を覚ますと昨日とは打って変わって、視界が眩しいぐらい開けていた。窓からは柔らかい光が差し、部屋の中がぼんやりと白い光に包まれている。
「おはようございます。まだ、起きるには早い時間ですよ」
秋良は昨日の事などまるでなかったかのように、澄ました顔をしていた。「水飲みます?」と言いつつ、冷蔵庫からペットボトルを取り出している。
「ありがとう‥‥‥」
脩は掠れた声で礼を述べると、体を起こす。腰がどんよりと重く、思わず顔を顰めた。秋良からペットボトルを受け取り、ゆっくりと口をつける。冷たい水が喉を通り過ぎ、ホッと一息つく。そこで、ちゃんと服も着せられ、体もきちんと拭かれていることに気がついた。
「昨日……あの後、寝ちゃったみたいでごめん」
「良いんです。僕のお願い聞いてくださって……ありがとうございます」
秋良は目を伏せ、寂し気な笑みを湛えていた。その表情に、思わず胸を鷲掴みにされたように苦しくなる。脩まで寂しい気持ちが込み上げてきて、思わず視線を逸らす。
重たい沈黙が流れ、外から聞こえてくる蝉の鳴き声がやたら鬱陶しく感じた。
「先輩って……恋人とかいないんですか?」
沈黙を破るように秋良が問いかけ、脩のいるベッドに腰を下ろした。白い光に照らされた横顔が、秋良の整った顔立ちをより際立たせている。白いモヤも気になるが、それ以上に秋良の横顔に脩は見惚れてしまう。
「あのさ……いたらさすがに、昨日ああいうことしないから。それに、経験ないって言ったでしょ?」
頬が熱くなり、視線を逸らす。どういう反応をするのか見ていられない。
「えっ……それじゃあまさか……」
「そうだよ。童貞だよ」
少しムッとして、拗ねたような口調になってしまう。同時に、自分は一生涯女性に恋することはないのだと、切ない気持ちが湧き上がってくる。
「そうじゃないんです……先輩の初めてを俺が……」
戸惑うような声音に、脩は訝しげに顔を上げる。秋良は口元に手を当て、頬を赤く染めている。その姿にむずかゆいような、甘酸っぱいような今までにない気持ちが芽生えてしまう。
昨日秋良に言われた「好き」という言葉を思い出し、脩の全身が一気に熱を帯びてくる。
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