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 しばらく眺めたのち、二人で車に戻る。脩は公園に勝る以上に、気分はすっきりとしていた。比べる対象の小ささに思わず苦笑が漏れる。  秋良と対面して以来、あの公園には足を向けていなかった。そのかわりに、駅前の喫茶店で少しだけ時間を潰してから家に帰宅する。すぐに自宅に帰るのは、どうしても気が引けてしまっていた。 「この近くに、商店が立ち並ぶちょっとした場所があるみたいだ。そこで昼食と会社へのお土産を見繕うか」  ホテルのラウンジにあった薄いパンフレットを片手に、助手席に座る秋良に目を向ける。秋良はシートベルトを掛けながら、ハッとした顔で脩を見つめ返す。 「あっ! お土産のことすっかり頭から抜けてました。先輩はさすがですね……俺、楽しんじゃって……仕事だってことを忘れてました」  すっきりとした目元伏せ、自分の失態を恥じるような秋良の姿に、思わず脩は微苦笑する。 「田端は出世するタイプだよ……」  会話の節々でいつも秋良は自分を褒める。そのうえ、それとなく楽しんでいることも加えていた。気恥ずかしいが、嬉しくないわけじゃない。喜々として言われてしまうと嘘っぽく感じるが、しおらしく言われてしまうと心動かされてしまう。  脩の心境とは裏腹に、秋良はキョトンとした顔で脩を見つめてくる。その幼いようでいて、整った綺麗な顔立ちに目を奪われてしまう。最初こそは、背後のモヤばかりが気になっていた。でも、気がつけば自然と秋良の表情に目を奪われてしまう。考えても見なかった疑惑の念が頭の片隅に浮かび、思わず心臓が跳ね上がる。 「先輩? 疲れているのでしたら、僕が運転しますよ?」  いつまでも秋良を見つめる脩に、怪訝な表情で秋良が首を傾げる。そこで、脩はハッとして、慌てて車のエンジンをかける。 「大丈夫だから」  胸に湧き上がった気持ちを誤魔化すように脩はアクセルを踏み込む。ハンドルをしっかりと握り、運転に集中しようと頭を切り替えていく。  それなのにも関わらず、落ち着かない気持ちは拭えない。いつまで経っても、脩の心臓は早鐘を打ち続けていた。

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