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 商店の立ち並ぶ通りで、予定通り昼食を済ませると、会社や実家に渡すための土産物屋巡りをしていく。  古民家の立ち並ぶ商店の町並みは、やはり観光地らしく賑わいを見せていた。ここでも外国人が圧倒的に多く、店先の店主が拙い英語を交えながら商品の説明をしている。  近くに温泉街もあるようで、浴衣姿で他国語を話している団体客とすれ違う。 「ここには、プライベートで来てみたいですね」 「そうだな。仕事となると、何だか気が抜けないし」  かといって休日になれば、ここはもっと賑わいを見せるだろう。人混みが苦手な脩は、あまり乗り気ではないが話を合わせる。 「でも、平日なのに結構混んでますよね。会社は土日休みですし……。俺、あんまり人混みが得意じゃないんですけどね」  せっかく雰囲気は良いのにと、残念そうに秋良は微笑む。見た目の華やかさとは裏腹な言葉に、少し驚いた視線を向けてしまう。白いモヤが一瞬濃くなったような気がして、瞬時に背筋が凍りつく。 「先輩? 俺、変なこと言いましたか?」  沈黙を不思議に思ったのか、怪訝そうな顔で秋良が顔を覗き込んでくる。 「いや……僕と一緒だなと思って、びっくりしただけ」  視線を落とし、再度秋良を見ると白いモヤはぼんやりとしたものに戻っていた。 「先輩も静かな場所の方が良いんですね。なんだか、嬉しいです」 「なんか、田端って変わってるな」  思わず本音が出てしまう。好きな人に零すような、なんともむずかゆい響きの言葉を投げかけてくる。掛ける相手を間違えているのではと思う半面、昨夜の事も頭を掠める。あの言葉は本気なのかもしれないという疑念が、沸々と胸のうちに湧き上がってくる。 「そうですかね……どうなんでしょうか」  少し声のトーンが下がり、気分を害したのかと脩はちらりと秋良を見やる。秋良は複雑な表情で笑みを浮かべていた。  秋良の事は、雲を掴むようなもどかしさを感じる。先輩を慕う優秀な後輩かと思えば、突然泣き出し困らせたり、頬を赤らめ自分を見つめてきたり……掴みどころが全くわからない。だからこそ、目が離せず、放っては置けないのかもしれない。

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