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一通り配り終えて戻ると秋良が戻ってきていたようで、早速草刈に捕まっていた。
「大丈夫だった?パワハラされてない?」
「されてませんよ。いつもと違う世良先輩が見れて良かったです」
「へぇー、どんな?」
「あっ、先輩戻ってきましたよ」
秋良が脩に気づき、視線をこちらに向けている。
「田端になんて事聞いてるんだ‥‥‥」
「えっ、別に‥‥‥さっ、仕事しよ」
ワザとらしくパソコンの画面に体を向けた草刈に、冷たい視線を投げると、脩は自分の席に腰掛ける。
「あっ、田端。出張報告書のまとめ方教えるから」
秋良に声をかけつつ、脩は二日目をどう誤魔化すべきかという事ばかり考えていた。
お盆休みが迫ってくるにつれて、脩の気持ちもずっしりと重たくなってくる。
重い足取りで脩が会社から帰宅すると、玄関まで聞こえてくる恵美子の喚き声に身が竦む。
お盆の帰省を前に、恵美子の発作が始まったのだ。
「なんで、なんで、なんで、孫まで取られなきゃいけないわけ?」
「力があると分かった以上は‥‥‥仕方がないんだよ」
道雄の優しく宥める声が聞こえてくる。道雄が帰ってきていることに、脩は少しだけ安堵する。
「いやよ、いや!!あなたは‥‥‥何も分かっちゃいない、来ないで、近寄らないで!」
突然、何かが割れる甲高い音が聞こえ、続くように恵美子の叫び声、道雄の慌てふためく声が廊下に響く。
脩は慌てて扉を開けリビングに駆け込むと全身が硬直する。
息を呑み、言葉を発することが出来ない。
食器棚の硝子が割れ、破片が飛び散っていた。割れたガラス破片や食器を前に恵美子が蹲り、頭を抑え啜り泣いてる。
「脩!救急車呼んでくれ!」
道雄が恵美子の頭を布で押さえつけている。
ガラスで頭を切ったようで、手で抑えている箇所から血が滴り落ちていた。
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