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 脩はしきたりや、詳しい事情を殆ど知らなかった。恵美子がそういう事を一切、脩には教えてこなかった事が大きい。  帰省の際、内情を唯一知ることが出来る集会などは、道雄が参加していた。脩は基本的には手伝いに回るか、美世の子守を離れの建物でするぐらいだった。  それに加え、恵美子は長居したがらない。用事が済めば一日か二日で戻ることが常だった。  兄弟であるはずの清治とも、二人だけで顔を合わす機会がなかなか巡ってこない。そのせいか、親戚のうちの一人のように感じてしまう。  家の距離だけに留まらず、心の距離まで離れてしまったような……それに加えて、清治だけが囚われの身になっていることに深い罪悪感もあった。後ろめたさから、顔を合わせたところで何を話せば良いかも分からない。 「そうか……脩は詳しい事は知らないもんな……。美世が、清治の跡目を継ぐことに正式に決まったんだ」 「えっ……だって、まだ四歳じゃあ……」 「清治の時もそうだったけど……ある一定の歳からは、歳を重ねる度に力が弱まってしまうんだ。清治ももうすぐ二十八になるだろ。だから今のうちから美世に、力のコントロールの仕方や教育をしていかなきゃいけないんだ」  酷なことだけど、と付け足し道雄の肩が微かに震える。 「兄さんみたいになるの?」 「そうだ。生き神様扱いってわけだ。あの屋敷の中で一生を終える……」  分かっていたことだが、血の気が引き足元がぐらつく。美世も清治のようになるのだ。 ――籠の中の鳥。  比喩に使われるそのままの意味で、清治は屋敷の中に幽閉されている。  禊が済めば、二度と屋敷の外に出ることは許されない。唯一の外の空気を吸えるのは、屋敷を囲っている生け垣の中だけだ。その時でさえ、お付きの人が傍に付いてきてしまう。

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