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「考えたんだけどな……今回、母さんが行けなくなったのを機会に、脩を会合に参加させようかと思ってるんだが」 「えっ……」 「母さんがお前を向こうに渡したくないばかりに、牽制していたのはもちろん知ってる。だから今までは俺が参加してた。でも脩だって、世良家の人間であることは変えようがないんだよ」  諭すような口ぶりの道雄に、やっぱり世良家の人間なのだと背筋が薄ら寒くなる。恵美子の手前、従順なふりをしていたのだけなのだろう。 「脩も知っておいたほうが良いこともあるしな。母さんには会合の件は、もちろん言わないでおくからさ」  もう決定事項のように道雄は腕を組み、一人納得している。  まさか会合に出るところまでは考えていなかった。遠目で見ても異様な雰囲気漂うあの大広間に、自分一人で大丈夫なのだろうか。 「俺は母さんに付き添ってるから、何かあったら連絡してくれ。くれぐれも、固定電話でな」  世神子村は山間に位置していて、電波が入りにくい。スマホはあまり使い物にならないだろう。そのせいか基本は固定電話で連絡を取り合っていた。 「……分かった」  乗り気にはなれないが、確かにいろいろと気になる事は山のようにあった。これをキッカケに知ることが出来るかもしれない。 「そうと決まれば、向こうに連絡しておくから。母さんが行けなくなったことは言ってあったけど、誰が参加するかは伝えてなかったからな」  道雄が少し嬉しそうな顔で、早々に電話をかけるために立ち上がる。 「脩も明日に備えてもう休んだほうがいい」 「うん……」  脩も腰をあげる。早速、道雄は受話器片手に電話をかけていた。  道雄の横を通り、脩は自分の部屋に荷物を纏めに二階の階段を登っていく。 「――明日は脩が参加しますので……えぇ、嬉しい限りです……」  階下の廊下から漏れ聞こえてくる道雄の声は、脩とは裏腹に弾んでいた。  分かってはいても突きつけられる現実に、脩は手すりを握りしめ唇を噛みしめる。 ――そうだ、自分も籠の中の鳥だった。  気づけば自分が普通の人と同じ生活を送っていくのが、当たり前となってしまっていた。  正解が見つからない迷路に迷い込んだような、暗澹とした気持ちが込み上げてくる。  脩は重い足を動かし、自分の部屋の扉を開けた。

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