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 暗闇にほんのりと青みが差し始めた頃。  脩は道雄の運転で、世神子村の最寄り駅を通る在来線まで送ってもらう事になった。  急な事で新幹線のチケットが取れなかったのだ。仕方なく、朝早い時間に家を出て車で二時間かけて送ってもらうことになった。 「本当なら向こうまで送っていきたいところだけど……見つかったら、顔を出さなきゃいけなくなるからな」  困った顔で道雄がハンドルを握り、小さく溜息を零した。 「大丈夫だから」  そう返しつつも、在来線で一時間はかかる距離にある。少しげんなりとしつつ、脩は流れ行く外の景色に目を遣る。 「最寄り駅に本家から使いを出すように頼んであるから……」 「分かった」  流れる景色が次第に青々とした山に変わっていく。それにつられるように、脩の気持ちも緊張感から口数が減ってしまう。  駅に着くと「よろしくつたえてくれ」と道雄は脩に言い残し、車が遠のいていった。  心細い気持ちで道雄を見送ると、脩は重いキャリーバッグを引きずり小さな駅の改札を抜ける。  秘境に近いこともあってか人もまばらで、大して苦労することもなく世神子村の最寄り駅にたどり着く。  駅から出ると待ち構えていたかのように、使いの人に声をかけられ車に乗せられた。  三十分ほど車に揺られ、やっと目的地にたどり着き、車が門をくぐり抜ける。  年末年始以来に訪れたこの場所は、相変わらず厳格な雰囲気に満ちていて畏怖せずにはいられない。屋敷の周囲にはよそ者の侵入、はたまた逃さないように高い塀で覆われていた。  後ろ手に閉まる門をバックミラー越しに盗み見ては、緊張感で吐き気が込み上げてくる。  まるで、一度入ってしまったら二度と出てこられないような重く閉ざされた扉に、脩は慣れる事が出来なかった。  車から降ろされ、荷物を預けると見上げるほど巨大な屋敷の前で思わず足がすくんでしまう。今日から二、三日はここで過ごさなければならないのかと思うと、やっぱり断ればよかったという後悔の念が込み上げてくる。 「こちらへどうぞ」  付き人に促され、やっと脩は重い足を動かした。  

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