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 あらかたの挨拶を済ませ、脩は緊張した面持ちで大広間へと出向く。  ずらりと座布団が並べられ、すでに何人かは座って談笑していた。背後にはぼんやりと白いモヤを背負っている。  躊躇しているとお付きの人に促され、上座に近い場所に案内された。案の定、周りの視線が一斉に突き刺さる。  普段は、離れにいる人間が今日はここにいるとなれば異端者扱いされても仕方がないだろう。  居た堪れない気持ちで俯いていると、「しゅーにぃちゃん」と軽い足音が聞こえ、ふと顔をあげる。  美世がまるで七五三の様な着物を着て駆け寄ってくる。一気に場の空気が和やかになり、脩の頬も自然と緩む。 「きょうはなんでここにいるの?」  脩の膝に飛び乗ると、不思議そうな目で見上げてくる。清治に似た優し気な目元に加え、無邪気で活発的なおかっぱ頭が可愛らしい。 「今日はね、僕のお父さんの代わりにここにいなきゃいけないんだよ」 「えー、あそんでくれないの?」  拗ねたように頬を膨らませ、ダダを捏ねはじめる。 「ほら、着物が崩れちゃうよ。大人しくしないと」  脩は美世に優しく諭す。周囲が騒がしくなり、気がつけば広間には多くの人間が集まっていた。  脩も再び、緊張感が胸に押し寄せ思わず息を呑む。 「脩? 久しぶりじゃないか」  優しい声音につられ、視線をあげると目の前に紋付き袴の清治の姿があった。 「久しぶり……」  つい、声が緊張で固くなってしまう。変わらないな、と脩は清治は穏やかな表情を見上げて眉間に皺を寄せた。 「聞いたよ。恵美子さん、怪我して来れないみたいだね。道雄さんが付きってるんだろ? 今日は脩が参加してくれるんだね」  まるで他人の様に実の親を名前で呼ぶ清治に、心が暗く沈み込んでいく。養子に出された時点で、親は叔母になっていることは分かっている。分かっていても、心がその事に追いついていない。憤りと切なさが混じり合って、顔を伏せる。思わず掌を強く握ってしまう。 「しゅーにぃちゃん?」  ただならぬ雰囲気に気づいたのか、美世が不安げに脩の顔を覗き込む。ハッとして、表情を和らげる。 「ご、ごめんね。慣れない長時間の電車だったから、ぼーっとしてたみたい」  脩は美世の頭を優しく撫でる。 「そうだったな。お疲れさま。そんなに長丁場にはならないから、終わったらゆっくり休んでくれ」 「……うん。分かった」

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