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 気づけばあらかた人が揃ったようだった。さっきまで空いていた座布団も、人で埋まっている。 「ほら、美世。お母さんの所に行っていなさい」  離れに連れて行こうと、清治が美世に手を差し出 す。 「いやだ! しゅーにぃちゃんといるの」  脩のスーツの袖をギュッと握りしめ、頑として動かないという意志で美世は清治を睨みつける。 「駄目だよ。これから大事な話をするんだから。美世は大人しく出来ないだろ?」  諭すように清治が言うも、美世は脩を盾に背後に回ってしまう。 「おーとーなしくすーるかーら」  美世は脩のスーツを引っ張りながら、間延びした声をあげた。グイグイとスーツを引っ張られ、脩も苦笑いするしかない。すでに大人しく出来ていないじゃないかと、心の中でツッコミを入れる。 「はぁーしょうがないな。うるさくしたら、外にだすからな」  清治は根負けしたのか、親バカなのか諦めたように 上座に行ってしまう。 「美世ちゃん。静かにね。僕を困らせないでよ」  こんな場所での子守役は正直荷が重すぎる。脩は念を押すように美世の目を見つめる。 「うん。わかってる」  美世は目を輝かせ、脩の隣の座布団にちょこんと座る。 「では、そろそろ始めます」  広間が一斉に静寂に包まれる。さっきまでの柔らかい表情が消え去り、清治の顔つきが凛々しいものへと変わっていた。異様な雰囲気に包まれ、張り詰めた緊張感が立ち込めている。  一斉に多くの目線を浴びているのにも関わらず、堂々としている清治の姿に、やっぱり当主なのだと思わざるを得ない。 「みなさんも承知の通り、元分家の者からの申し入れがありました」  何のことだか分からず、脩は眉間に皺を寄せる。 「本家、もしくは分家の中から力の持つものを一人こちらに養子として迎えたいというものです。もちろん、こちらに利益はないので断ってはいます。それでも、向こうも退く気はないようです。くれぐれも、身辺に注意を払ってください」  重い空気が漂い、周りもヒソヒソと耳打ちする声がそこら中から上がる。

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