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「しゅーにぃちゃん……」
美世に小声で、裾を引っ張られる。嫌な予感に思わず苦笑いが溢れてしまう。
「どうしたの?」
脩は声を潜め、美世の口元に耳を寄せる。
「トイレ……」
やっぱりなと思いつつ、ちらりと清治に目を遣る。清治もこちらを見ていて、苦笑いしつつも頷いた。
脩はそっと、美世を立ち上がらせ廊下に出る。あの場に自分がいなくたって支障はないだろう。今の話ですら、チンプンカンプンだったのだから。それに、重要な話だったら後で道雄に電話で話すだろう。
脩は美世の手を引きつつ、長い廊下を突き進む。
「……ごめんなさい」
小さく沈んだ声音に視線を向ける。さすがに反省しているのか、美世がしょんぼりとした顔で俯いていた。
「大丈夫だよ。僕も、あんなとこにずっといたら息が詰まりそうだ」
ある意味、美世に救われたのだ。脩は心なしかホッとしていた。
トイレに入る美世を横目に、廊下から見える広い庭に視線を向ける。
四季折々の木々や花が植えられ、中央には大きな池まであった。唯一、清治が見る外の世界がここだと思うとゾッとする。美世もきっと、ここが外の世界なんだと思うのだろう。塀の向こうにはここよりも、綺麗な景色があるというのに……。
沈痛な面持ちで、庭を眺めていると美世がトイレから出てくる。
「しゅーにぃちゃん? なんでないてるの?」
「えっ?」
一瞬、言われた意味が分からずぽかんとした顔で、美世を見下ろす。
「どこかいたいの?」
「ううん。大丈夫だよ」
自分の頬に手の甲をあてると、確かに濡れていた。自分も気づかないうちに、涙を流していたようだ。
「しゅーにぃちゃん、こっちきて」
美世に強く手を引かれついていくと、廊下の奥にある部屋に引っ張り込まれた。
「ここね、ミヨのヒミツのばしょなの」
五畳ほどのスペースに座布団が積まれ、使い古されたタンスが埃を被って置かれていた。物置部屋なのだとすぐに察しが付く。
美世が襖をそっと閉めると、脩の手を引き座らせた。一体なにをはじめるつもり何かと、ヤンチャ娘に脩は苦笑する。
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