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「確かに最初は不安でいっぱいだったさ。養子になっても近くにいるからすぐ会えるって思っていたけど、上京したと聞いて……ああ、捨てられたんだってね、思わなくもなかった」
自嘲気味に頬を緩ませ、視線を逸らす清治に脩は掛ける言葉が見つからない。
「でも……たくさんの人達の前世を見て、助言していくことで、多くの人が笑顔になってくれた。辛いのは自分だけじゃないとも分かったしね。それに、妻とも結婚して美世も生まれて、今は幸せだし後悔してないよ」
笑顔で言ってのける清治に、余計に心が締め付けられてしまう。鳥かごの中でも、幸せを見出してこんな風に笑顔を向けることが出来るのは、本当の外の世界をしらないからだろう。だからこそ、都会での暮らしを清治に伝える事は憚られてしまう。
「さて、本題に移ろうか。見てあげるから、手を出して」
気を取り直すように、清治が手を打つと両手を差し出す。そこでふと、出張の日の夜のことが頭を掠める。確か、変な夢を見た時も秋良と手を繋いでいた。
「前世を見るときって、手を握れば見れるの?」
疑問を口にした脩に、「企業秘密なんだけどな」と清治が笑う。
「ただ手を握れば良いってもんじゃないけどね。ちゃんと、お互いに目を閉じて意識に入り込まなきゃいけないから。分かったら手を出して」
清治に促され、脩は両手を差し出す。清治の優しく少し節張った指先に、包み込まれるように握られる。
清治はこんな手をしていたのかと脩は思わず、視界が涙で滲んでくる。兄弟なのに何もしらない。そんな歪んだような現実を、突きつけられたような気がした。
「脩はなにもしなくていいから、ただ良いというまでは目を閉じててね」
清治に言われたとおり、恐る恐る脩は目を閉じる。美世が泣き叫ぶほどの前世なら、清治も言葉を詰まらせるかもしれない。不安ばかりが胸に押し寄せ、心臓がうるさいほど鳴っていた。
蝉の声がうるさいほど部屋に響いていて聞こえる。涼しいはずの室内にいるのはずが、じっとりとした汗が背中を伝っていく。
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