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「いいよ」
どれぐらいの時間が経ったのだろう。ゆっくりと瞼をあげると、腕を組んだ清治の姿が目に入る。やっぱりろくな前世ではなかったのか。黙り込む清治を、固唾を呑んで見つめる。
「なるほどね。美世が泣き叫ぶのも分かる」
開口一番に、清治がため息とともに言葉を吐き出した。
「女性が苦手とかある?」
全身に悪寒が走る。脩の青ざめた表情に、「そっか。持ってきちゃったか」と溜息を零し、眉尻を下げ微笑む。
「特にさ、若い女性が駄目でしょ?」
「うん……高校生ぐらいの時からか急に、触れられたりすると具合が悪くなって……」
秋良に話した事を清治にも掻い摘んで話していく。
「そっか……辛かったな」
慈しむような目を向けられ、思わず唇を噛みしめる。
「弟に対してとなると、凄く言いづらいんだけど……」
伺うような視線を向けられる。きっと、聞いてショックを受けると思われているのだろう。
「大丈夫だから……教えて」
脩が先を促すと、清治は静かに頷いた。
「前世で、女の人に刃物で刺されて殺されてる。それも、恋人の姉にね」
目の前が真っ暗になる。後ろから突き飛ばされ、そのまま暗闇の中に投げ込まれたような錯覚に思わず目を閉じる。
「大丈夫か?」
清治の案じる声が聞こえてくるも、言葉を発することが出来ない。
――夢の内容と一致している
その事実が、胸の底から恐怖を生み出し、黒いモヤとなって全身を覆っていく。
「顔色が悪すぎる。これ以上は聞かない方が、良いかもしれないな」
清治が立ち上がる気配に、思わず脩は袖を引く。
「大丈夫……だから……」
「でも……」
「僕も……夢で見たんだ」
清治が息を呑む気配が伝わってくる。再び、清治は腰を下ろし脩は手を離した。
「この間、後輩と出張に行って……その時に――」
脩は清治に、その日の夜の話を掻い摘んで話していく。
話を聞き終えると、黙って聞いていた清治は「その後輩って……もしかして」と腕を組む。
さすがに前夜の話はしていないが、何となく感づいているのだろうかと頬が熱くなる。
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