60 / 106

59

「いいよ」  どれぐらいの時間が経ったのだろう。ゆっくりと瞼をあげると、腕を組んだ清治の姿が目に入る。やっぱりろくな前世ではなかったのか。黙り込む清治を、固唾を呑んで見つめる。 「なるほどね。美世が泣き叫ぶのも分かる」  開口一番に、清治がため息とともに言葉を吐き出した。 「女性が苦手とかある?」  全身に悪寒が走る。脩の青ざめた表情に、「そっか。持ってきちゃったか」と溜息を零し、眉尻を下げ微笑む。 「特にさ、若い女性が駄目でしょ?」 「うん……高校生ぐらいの時からか急に、触れられたりすると具合が悪くなって……」  秋良に話した事を清治にも掻い摘んで話していく。 「そっか……辛かったな」  慈しむような目を向けられ、思わず唇を噛みしめる。 「弟に対してとなると、凄く言いづらいんだけど……」  伺うような視線を向けられる。きっと、聞いてショックを受けると思われているのだろう。 「大丈夫だから……教えて」  脩が先を促すと、清治は静かに頷いた。 「前世で、女の人に刃物で刺されて殺されてる。それも、恋人の姉にね」  目の前が真っ暗になる。後ろから突き飛ばされ、そのまま暗闇の中に投げ込まれたような錯覚に思わず目を閉じる。 「大丈夫か?」  清治の案じる声が聞こえてくるも、言葉を発することが出来ない。 ――夢の内容と一致している  その事実が、胸の底から恐怖を生み出し、黒いモヤとなって全身を覆っていく。 「顔色が悪すぎる。これ以上は聞かない方が、良いかもしれないな」  清治が立ち上がる気配に、思わず脩は袖を引く。 「大丈夫……だから……」 「でも……」 「僕も……夢で見たんだ」  清治が息を呑む気配が伝わってくる。再び、清治は腰を下ろし脩は手を離した。 「この間、後輩と出張に行って……その時に――」  脩は清治に、その日の夜の話を掻い摘んで話していく。  話を聞き終えると、黙って聞いていた清治は「その後輩って……もしかして」と腕を組む。  さすがに前夜の話はしていないが、何となく感づいているのだろうかと頬が熱くなる。

ともだちにシェアしよう!