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 飲みすぎて軽い吐き気を覚えつつ、脩は早々に切り上げてあてがわれた部屋に向かう。  廊下を歩いていると、吹き付ける夜風がなんとも心地良く、火照った体の熱を奪い去っていく。思わず心地よさに立ち止まってしまう。昼に見た時は違う、なんとも暗く寂しげな庭に変わっていた。  ふと、池の前に誰かが佇んでいるのが見える。  暗くてよく分からないが、長身の男のように思えた。そこに、袴姿の男が近づきなにやら話し込んでいた。親密そうに体を寄せ合っていて、見てはいけない物を見てしまったと気づく。  慌てて、視線を逸しその場を後にした。向こうはこちらに気づいていなかったから、大丈夫だろう。  早まる心臓を抱えつつ、自分の泊まる部屋に足早に向かった。  部屋にはすでに荷物は運び込まれていて、布団一式とテーブルだけの殺風景な室内だ。  テレビもなく、スマホも電波一本のこの状態では非常に退屈だった。都会慣れの恐ろしさに、いつも来る度に思い知らされてしまう。  いつもなら道雄と恵美子がいて、何かと賑やかだが今日は一人で過ごさなければならない。そう思うと、落ち着かない気持ちが込み上げてくる。  ふと、まだ清治と脩が一緒に暮らしていた頃に行っていた公園を思い出す。確か、ここからそう離れていないし歩いていけるはずだ。  清治と再び心を通わせた事もあってか、急激な懐かしさが込み上げてくる。  脩は再び、廊下に出る。今度は足早に庭を通りすぎ、大広間へと向かった。  まだ、宴会は続いているようで、酒の匂いと食べ物の匂いが周囲に蔓延し、気持ち悪くなってくる。  軽く手で口を抑え、周囲を見渡し清治の姿を探す。いるはずの上座がぽっかりと開いていた。美世はとっくに部屋に戻っているので、もしかしたら既に引き上げたのかもしれない。  仕方なく、給仕していた人を捕まえて清治宛に言伝を頼んだ。一応、外に出る旨を伝えておいた方がいいだろう。出れない清治にどこに行くのか告げるのは酷だと思い、電波の入りそうな場所に行くとだけ伝えてもらうことにした。

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