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 公園までの道のりは何となく、記憶に残っていたようだ。  暗い田んぼ道を、街灯だけを頼りに進んでいく。昼の照りつける暑さがなく、涼しい風が頬を撫でていた。懐かしい商店は、すでに明かりが消えさりシャッターが閉ざされていて薄ら寂しい。  家々が立ち並ぶ通りを過ぎ、木々に囲まれた先にポツンと小さな公園があった。昔来たときと何も変わらず、ホッと息を吐き出す。  なくなっていたらどうしようと思っていたが、今でも現役のようで地面には忘れ去られたサッカーボールが転がっていた。  近くの自販機でコーヒーを買い、少し錆びついたブランコに腰を下ろす。久しぶりのこの感じに、来て良かったと思わず頬が緩んでしまう。  夏の夜風を肌に感じ、静かに目を閉じる。  まさか、この場所でリフレッシュが出来るとは思っても見なかった。これをキッカケに、少しは心の枷が軽くなってくれればいい。  ふと視界が急に明るくなり、車のエンジン音が聞こえてくる。驚いて、目を開き視線を公園の入口に向ける。  この場所には似つかわしくない、黒塗りの外車が公園の前に塞がるように止められた。疑問が湧き上がると同時に、恐怖で身体が強張ってしまう。  視線を逸らすことも出来ず、どうしようかと思い悩んでいると、運転席からスーツ姿の男が降りてきて後部座席のドアを開けた。  中から着物姿の若い女が姿を現し、背筋が凍りつく。恐怖で身体が震えだし、夏なのにも関わらず、全身に鳥肌が立つ。その女の背後には、白いモヤが張り付いていた。  着物の女がまっすぐこちらに近づいてくる。脩は思わず缶コーヒーを手から離してしまい、地面に転がり落とす。 「あなたが世良 脩さんかしら?」  女はブランコの近くに立つと、脩を見下ろすように視線を向けている。まだ、若く二十代後半ぐらいだろう。脩が一番苦手とする年齢であることは間違いなかった。裏付けるように、吐き気と目眩が押し寄せてくる。 「……そうですけど」  なんとか言葉を振り絞るものの、唇が震えてしまう。背後の白いモヤがあるところを見ると、親類の筋なのだろう。でも、世良家の人間ではないことは分かる。自分を知らないはずがないのだから……。

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