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 二人っきりの空間となり居心地に悪さから、額から冷たい汗が流れていく。  向かいに腰を降ろしている女は、対照的に呑気にティーカップに口を付けていた。 「さて、まずは自己紹介致しますわね。私は田端 優美華と申しますの。秋良の姉ですわ」  目の前が真っ暗になった。秋良の涙に濡れる顔が、脳裏にぼんやりと浮かんでしまう。 「弟が大変お世話になっております。出来の悪い弟で、ご迷惑かけていないかしら」  思わず脩は優美華を睨みつけた。この姉が秋良の性格をあんな風にしたのかと思うと、怒りで体が震えてしまう。 「田端は……とても優秀です」  怒りで声まで震えていた。さっきまでの恐怖が消え去り、言葉に怒気が孕んでしまう。 「あら、そうなの。猫かぶりだけがあの子の取り柄だものね」  脩は両手をテーブルに叩きつける。食器が跳ねる高い音が部屋に響き渡り、優美華が片眉を吊り上げていた。  秋良を愚弄し続ける態度に、さすがに耐えきれない。 「帰らせていただきます」  脩は立ち上がると、荒々しく部屋の扉に歩いていく。とにかく部屋を出て秋良を探すつもりだった。 「あの子と寝たの?」  優美華の一言に、思わず足が止まってしまう。 「そんなはず、ないじゃないですか」  動揺を抑え込むように、脩は少し強い口調で言葉を発する。 「じゃあ、何故? あんな子を庇うにかしら?」 「僕の……後輩だからです」 「ただの後輩なのに、そこまで本気で怒れるかしら」  脩の背中に冷たい汗が流れていく。 「あなた……嘘つくの下手ね」  いつの間にか、優美華が背後に立っていた。脩は背筋に冷たい水を浴びたように、ビクリと体を震わせる。 「見せて頂戴。貴方の過去を……」 「い、いやです」  脩はドアノブに手をかけ必死に回そうとするも、外から鍵をかけられているのか一向に開く気配がなかった。前世を見られてしまったら、もしかしたら秋良との関係性に気づかれてしまうかもしれない。

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