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「どうして? やましいことがないなら、見せられるでしょ?」
肩を捕まれると体を反転させられ、目の前の立ちはだかる優美華に、脩は思わず腰が抜けてしまう。
扉を背に脩はズルズルと座り込んだ。それでも、両手を後ろに隠し抵抗する。
「あら、やだ。男のくせに腰を抜かしているわ」
クスクスと笑いながら優美華が脩の前で正座すると、脩の腕を無理やり掴む。思わず力が抜けて、手を掴み取られてしまう。
それでなくても、女性に触られるだけで辛い。急激な目眩が押し寄せ、視界がグラグラと揺れはじめた。否が応でも、瞼が重たくなってくる。
「あらやだ、お久しぶりってところかしら」
優美華が手を離し、高らかに笑い声を上げはじめた。
「可笑しいったらないわね。でも、これで秋良が裏切った理由も分かったわ」
優美華が手を二回叩くと、今まで開かなかったはずの扉が開く。後ろに倒れそうになるの体を慌てて起こし、脩は青ざめた顔で後ろを振り返る。
そこには先程の男が背後に立っていた。
「秋良を呼んできて頂戴」
優美華の指示を聞いた男が、無言のまま立ち去っていく。
「さぁ、貴方はいつまでもそこに座ってないで、こっちにいらっしゃい」
脩はフラフラと立ち上がり、言われたとおりソファに腰を下ろす。もう逃れようがないだろう。とにかく秋良の顔が見たい。脩は目を閉じてソファに背中を預けた。
「せんぱい?」
しばらくすると秋良の声が聞こえ、ハッとして脩は目を開けた。
入り口に立つ、驚いた顔の秋良の姿が目に入る。頬が赤く腫れ、唇の端に血が滲んでいた。
「な、なんでここにいるんですか! ちゃんと連絡してくださいって、言ったじゃないですか!」
「うるさいわね。失敗作なうえに、ほんとに役立たずね」
優美華が立ち上がり荒い口調で秋良に詰め寄ると、頬を思いっきり叩 く。
鋭い音が部屋に響き渡り、頬を抑えた秋良は悄然とした表情で俯いた。
そんな姿を見ていられず、脩は重たい体を起こし立ち上がる。ふらつく足取りで秋良に近寄ると、無言のまま秋良の腕を引く。
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