67 / 106

66

 秋良を自分の後ろに隠すように、脩は一歩前に出る。  逃げるすべも、対抗する手段も思いついていない。それでも秋良を守りたい気持ちが強かった。 「せ、せんぱいっ……」  背後の震える声には答えず、脩は吐き気を堪えるように荒い呼吸を繰り返す。冷や汗が背中を伝い、シャツがへばりつく。 「へー、さすがは前世で愛を誓いあった仲だけあるわね‥‥‥良いわ、取引しましょう。貴方が、素直に私の婿になるなら秋良を開放してあげるわ」  愕然として脩は思わず目を見開く。 「そんなの……」  無理に決まっている。触られただけで拒絶反応が出るというのに、一緒になんて暮らせるはずがない。それに……そんな事したら世良家への裏切り行為になるだろう。  やはり、清治の言っていた元分家は、この田端家のことなのかもしれない。そうでなければ、わざわざ婿になれとは言わないはずだ。自分を田端家に入れるメリットなんて、ないのだから―― 「なぁに? 私じゃあ不満てことかしら?」  不服そうに優美華が眉を顰める。黙り込む脩に、優美華の顔が次第に赤く上気していく。 「ふざけないで! 出来損ないの弟はよくて私は駄目なわけ? 馬鹿にするのも大概にして」  優美華が脩の腕を無理やり掴む。ゾワっとした嫌悪感が背筋を駆け上がった。体が震え、膝から崩れ落ちそうになる。 「ふーん。女性が苦手なのかしら」  腕を掴む力が強まる。視界がぐらつき始め、血の気が引いていく。  すかさず腕を強く引かれ、思わずよろめき床に倒れ込む。優美華は足で脩を仰向けに蹴り倒すと、髪を振り乱し馬乗りになってくる。ずっしりとした重みが腹部に圧をかけ、思わず呻く。 「あらやだ、まるで前世のときみたいね。トラウマになるのも分かるわっ」  高らかに笑うと、優美華の手が帯に触れ赤い帯留めを外していく。殺されると分かっていても、全身に力が入らない。  優美華は帯留めを脩の首に回し、徐々に力を入れてくる。紐が喉に食い込んでいく痛みと苦しさに、脩は必死で紐をつかもうともがく。 「秋良! あんたが悪いんだからね! ちゃんと言う通りに動いてたら、こんな事にならなかったのよ」  冷たい視線を秋良に向け、ゆっくりと脩を見下ろす。

ともだちにシェアしよう!