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「せっかく生まれ変わって出会えたのに、残念ね……」  グッと力を入れられ喉が締め付けられる。あまりの苦しさに藻掻くも、一向に手が緩まない。鬼気迫る表情で歯を食いしばり、紐を握る優美華の顔が目の前に迫る。  その姿は前世の着物の女に似た顔をしていた。  視界が歪み、涙が自然と溢れる。死んだら……生まれ変わってもう一度、秋良に会うことが出来るのだろうか。今度はちゃんと二人が、幸せに出会えるような関係で生まれたい。  霞む視界の中、脩は必死に秋良の姿を探す。最後にもう一度だけ、秋良の姿を見たかった。  その願いを打ち砕くように、視界が徐々に狭まっていった――  ふと、甲高い悲鳴が聞こえ体が急に軽くなる。  脩は体を横向きにし、跳ねるように激しく咳き込む。手で喉元を抑え込む。あまりの苦しさに、まだ絞められている感覚が残っていた。 「せ、せんぱいっ、逃げましょう」  秋良の震える声とともに、脩は体が起こされた。秋良の肩に手を回され、脩は引きずるように歩かされる。 「秋良!! あんた、また裏切る気なの! 失敗作のくせに!」  背後から優美華の甲高い叫び声が聞こえ、秋良の体が一瞬跳ね上がった。それでも歩みを緩めること無く、玄関を目指している。  叫び声を聞いた使用人の男たちが、慌てて駆け寄ってくるのが見える。 「そいつを捕まえて!」  優美華の一声に、二人を囲むように男たちがにじり寄ってくる。 「せんぱいっ‥‥‥ごめんなさい」  足が止まり、秋良の体が細かく震えていた。この状態では、とてもじゃないが逃げ出すのは難しいだろう。 「だ、大丈夫だ‥‥から‥‥‥あり、がとう‥‥‥」  首を絞められたせいか、うまく言葉を発する事が出来ないのがもどかしい。きっと、捕まったら引き離されてしまうだろう。だから‥‥‥言うなら今しかない。覚悟を決めると、ゆっくりと脩は口を開く。 「あ、あきら、出会えて‥‥…良かった」  驚いた顔で、秋良が脩を見つめた。痛々しいまでに血の滲んだ唇が、僅かに開かれる。名前で呼んだのは初めてだ。対立していると分かった『田端』であって欲しくない、という願望から名字で呼びたくなかった。

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