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「いろいろと、すみませんでした」  脩は居た堪れない気持ちになり、静かに視線を伏せる。 「後の事はこちらに任せてください。ご承知の通り、清治さまは優秀なお方ですから問題ありません」 「はい‥‥‥あの、秋良は何処にいるか分かりますか?」  車を都内には向かわせているようだが、秋良の所在を知っているのか疑問だった。今更ながら、不安が込み上げてくる。 「こちらも確かなことは言えませんが‥‥‥会社を退職し、都内を出る可能性が高いかと‥‥‥」  目の前が真っ暗になる。予想はしていたものの、やはりそうなるのだろう。  会社を自分の居場所が出来たみたいだと言っていた、秋良の顔が脳裏に過ぎる。 「全てを話するようにと、清治さまに仰せつかっておりますが聞かれますか?」  伺うような視線をバックミラー越しに投げかけられ、脩は静かに頷いた。  大正時代。本家とのお家騒動で分裂した、現在の田端家は、資産家と提携して新しいビジネスを始めた。国内だけに留まらず、海外にも目を向けたりと最初こそは順調そのものだった。  しかし、子孫繁栄が叶わずどんどん衰退していってしまう。現在、力を持つ人間は秋良の母と姉である優美華だけとなってしまったのだ。  母親は歳のせいで力が弱まってきている。このままでは、資産家に手を切られ田端家は路頭に迷ってしまう事になってしまう。  そこで、やむを得ずとも本家に申し立てを行ったのが、今回の事の発端のようだ。もちろん、そんな願いを受け入れるはずもなく、清治は利益にもならない裏切り者に手を差し伸べなかった。それどころか、分家に緊急の通達を出し、身辺の警戒を促した。  焦った田端家は唯一、村の外に出て都内に暮らしなおかつ、警護が手薄な脩に焦点を絞ることにしたのだ。  見える人間が村の外に出るはずがないので、見えない可能性もあった。無駄骨を折らないように、秋良を脩の会社に潜入させてスパイのような事をやらせていたのが全体像だった。 「何はともあれ、田端家はもう終わりでしょう。立て直すことは不可能です。現在、田端家の人間は秋良さんを除いて本家の人間に拘束されています」

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