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「秋良は拘束しないんですか?」  秋良がスパイ行為を働いていたのは間違いない。それなのに、秋良だけ拘束されないのが不思議だった。 「彼は全てを正直に吐きました。そのうえ、脩さまをお救いになっています。清治さまの温情によるところでしょうか」 「‥‥‥そう、ですか」  秋良が自由の身になれたのは良かった。でも、こうして探す身となると焦燥感と不安ばかりが胸を覆う。 「脩さま。彼が拘束されてしまったら、それこそ会うことが出来なくなったかもしれません。見つかるのか分かりませが、彼にとっても貴方にとっても清治さまのご決断は良い選択のように思われますが」  浮かない表情をしていたのだろう、諭すように冴木が語りかけた。 「分かっています‥‥‥兄さんには感謝してます」  脩は窓の外に視線を移し、鉄の柵に囲まれた高速道路の壁を見つめる。  電波が良くなったせいなのか、突然スマホが鳴り出す。慌ててポケットからスマホを取り出し、画面を見ると真壁の名前が表示されている。脩は驚いて、すぐさま冴木に断ると電話に出た。 『おい!何度も電話したんだぞ』  電話に出た途端に、少し不機嫌そうでいて焦っているような声に思わず肩が跳ねる。 「すみません。電波の入らない所にいたので‥‥‥」 『お前今どこにいるんだ?』 「地元から戻ってきて、今は高速道路の上です」 『これから会社に来れるか?』  嫌な予感が押し寄せてくる。脩は思わず目を閉じて、息を吐き出す。 『おい? 何か知ってるのか?』  こちらの気配に何か察したのか、真壁が声を落として怪訝そうなに言葉を発した。 「すみません。今から向かいます。あと一時間ぐらいで着きますが、大丈夫ですか?」 『ああ。わかった。気をつけてこいよ』  脩は失礼しますと言って電話を切る。 「会社に向かえばよろしいですね?」  冴木がバックミラー越しに、脩に視線を投げかける。 「はい。すみません。お手数をおかけしてしまって」  本当ならば清治の元で、身の回りの世話をしなければいけないはずだった。それでも清治は気を使って優秀かつ、脩と顔馴染みの冴木に役目を任せたのだろう。 「お気になさらないでください。これも仰せつかった仕事ですから」 「‥‥‥ありがとうございます」  スマホの画面に視線を向けると、ずらりと並ぶ真壁の名前が事の深刻さを物語っているようだった。

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