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「真壁さん……」 「んっ?」 「僕は真壁さんのお陰で、ここまでやってこれました」  真壁がファイルから顔を上げ、驚いた顔で脩を見つめる。 「感謝してます」  たまに鬱陶しいと思ってしまうが、やはり頼りになる先輩には違いなかった。犯罪行為スレスレのことを、脩の為にと手を貸してくれているのだ。そこまでしてくれる先輩が、一体何人いるのだろうか。 「お前……なんだか変わったな」  目を丸くして見つめていた真壁の表情が、柔らかく優しいものに変わる。脩は急に照れくさくなって、視線を逸らす。 「……やっぱり嘘です」  恥ずかしさのあまり、脩は前言撤回をする。頬が熱くなり、なんだか落ち着かない気持ちなってしまう。 「ははは。やっぱりいつもの世良だな。でも、お前らしくて良いよ」  そう言って、真壁が口角を上げたまま視線をファイルに戻す。 「ほら、あったぞ」  そう言って見せられた住所は、会社から四駅ほど離れていて、脩の家からも反対の方向にあった。  最初の頃、秋良と公園で会ったのは偶然ではなく、本当は跡を付けていたのだろう。秋良がスパイだという事実を突きつけられ目眩がしてくる。分かっていても、やっぱり衝撃は大きい。全身に水をかけられたように、寒気が襲いかかって来る。 「顔色悪いけど大丈夫か?」  真壁が眉根を寄せて、脩の顔を覗き込む。顔色が悪いのは自分でも分かっていた。脩は小さく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。 「すみません。大丈夫です。僕はこれからそこに行ってきます」 「ああ。辞職願は一先ずは俺が預かっておくから。落ち着いたらで良いから連絡よこせよ」 「はい。ありがとうございます」  脩はそう言い残すと、部屋を出てそのまま秋良の住むアパートを目指した。  

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