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「秋良は僕と手を繋いでも、見えなかったのか?」
冴木は田端家で見えるのは、母親と姉だけだと言っていた。それでも、脩みたいに隠している可能性もなくはなかった。
「俺は完全に見えません。だからこそ、役立たずだと言われて育てられてきました。力をもたない俺は失敗作なんです。それに……自分の過去の事は、姉から聞いていたので知っています」
秋良の苦しげな声に、脩は嫌な予感に囚われた。もしかすると、前世でも優美華と姉弟だったのだろうか。
「……俺と姉さんは前世でも姉弟でした。前世でも男に心揺らいだうえ、家の名を汚すように心中する役立たずなんだそうです」
秋良が切なげな表情で脩を見つめる。その表情に耐えきれず、脩は秋良を抱きしめた。秋良が息を呑む気配に、脩は涙が込み上げてきてしまう。
「もう良いんだ。自分を責めるな。こうして僕たちは巡り会えたんだ。それだけで十分だ……」
唇を震わせ、秋良に囁きかける。秋良は役立たずでも、失敗作でもない。その証拠に、二人とも生きているのだから……
「それに、秋良は前世の時とは違う。ちゃんと立ち向かって、こうして僕を助けてくれたじゃないか。僕たちは……前に進めたんだ」
「……はい」
お互いに体を離し、向かい合う。
秋良は目元を赤く染め、今にも泣き出してしまいそうだった。けれども、頬を緩め微笑んでいた。脩も、涙を頬に伝わせ微笑む。
「秋良。好きだよ。ずっと一緒にいよう」
「はい。俺も好きです。約束しましたもんね」
二人で手を握りあう。もう、この手を離すつもりは
なかった。
「それから……辞表は真壁さんが預かっているから、破棄してもらっていいな?」
脩は念を押すように、秋良を見つめる。もう、辞める必要はないのだから。すぐにでも、真壁に連絡したかった。
「……はい。でも、真壁先輩には俺から連絡します。迷惑をかけたのは俺なんで」
そう言って、スマホを取り出すと真壁に電話をかけ始めた。
こんなにも常識のある秋良と、家族との大差に驚く。優美華も秋良のように、良識があったらまた違っていただろう。
隣で電話越しに頭を下げる秋良を横目に、脩は静かに溜息を吐き出した。
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